ワン・ダイレクションはこの3年間、世界最大のポップ・グループとして活躍している。活動歴はオールマン・ブラザーズ・バンドには及ばないものの、音楽プロデューサー、サイモン・コーウェルのもとに集められた“歌自慢コンテストの次点者たち”にしては、かなり優秀な成績だ。彼らの誰かがソロで活動したい、俳優になりたい、あるいはファッション会社の重役にでも……という夢を秘かに抱いていたとしても、今のところその秘密は漏れていない。見る限り、不愉快な若者たちでもなさそうだ(こんなふうに外見と中身が一致した存在になれるとしたら、ジャスティン・ビーバーのPRチームはビーバーの両中指を切り取ってしまうかもしれない)。

アルバム・タイトルの『フォー』がレッド・ツェッペリンのアルバムを参考にしているのかは不明だが、本作はレトロなヴァイブに満ちている。収録曲は派手な80年代のポップ・ロックと、よりエレガントな70年代の楽曲を足して2で割ったような雰囲気。ハイムの2013年作『デイズ・アー・ゴーン』のやり方に似た、とても21世紀的な戦略だ。「ホエア・ドゥ・ブロークン・ハーツ・ゴー」は、ボン・ジョヴィ「ワイルド・イン・ザ・ストリーツ」のようなシンセ・メタルの楽曲に乗せて、鼓膜を破ろうとでもするかのようにメンバーが大合唱する。「スペイシズ」は、まるでイーグルスがワンリパブリックのライアン・テダーとレコーディングしたような曲。陽気な「ガール・オールマイティー」は転がってゆくようなリズムがジュース・ニュートンの「クイーン・オブ・ハート」を彷彿とさせ、整然としたギター演奏はフリートウッド・マックの「アイ・ドント・ウォント・トゥ・ノウ」をそのままコピペしたかのよう。

実は、1Dがオールドスクールを試みたのは本作が初めてではない。「リヴ・ホワイル・ウィアー・ヤング」(12年)のオープニングのギターはクラッシュふうだし、彼らのベスト・ソングである「ベスト・ソング・エヴァー」(13年)の激しく叩きつけるようなシンセは、ザ・フーの「ババ・オライリィ」のようだ。それぞれをぜひチェックしてみてほしい。

ヴォーカルはいつものように、メンバーの類似点をあえて強調するかのようなやり方で振り分けられている。超セクシーなハリー・スタイルズと、好き嫌いが分かれるアイルランド人メンバーのナイル・ホーランが、これぞ民主的と言わんばかりに平等に歌っている。また1Dは、昔からボーイ・バンドが得意としていた“聴衆の耳に直接ささやきかける方法”を習得。聴き手は彼らと本当に一緒にいるかのようだ。「レディ・トゥ・ラン」では、さざめくアコースティック・ギターの音色のなか、各メンバーが「そう、そこにいる君、セクションG、列45、席11にいる君」と、聴き手に訴えかけてくる。その後は全員が一緒になって、きらきらと輝く“コーラスの宮殿”へと全速力で突っ走ってゆく。  メンバー及び共同作業を行ったソングライターたちは、アルバムにちょっとした皮肉も忍ばせている。本作のなかで最も優れた楽曲「ストックホルム・シンドローム」は、洗練された、ダンサブルなR&B。スタイルズも作詞に参加したこの曲、ガールフレンドのなすがままである境遇について歌ったものだが、聴き方を変えれば(実際はそうではないかもしれないが)、現在彼らが捕らわれている“セレブリティの監獄”から救いを求めて叫んでいるかのように聞こえなくもない。

だが本作を通じていちばん感じるのは、彼らの成長だろう。『フォー』の中で長く愛聴されるであろう一曲「ファイアプルーフ」は、哀願するような歌詞の繊細なソフトロックで、ボーイ・バンドだろうが大人のバンドだろうが、みんなが誇りをもって「これは自分たちの曲」と言える楽曲だ。フリートウッド・マックの「愛のジプシー」ふうベースラインに乗せて、メンバーが交互に歌い、聴く者に力を与えてくれる。アルバム全体がこんなふうにスムーズで洗練された簡潔さをもっていたら、いかに素晴らしいだろう。もしかしたら、『Eight』ではそうなっているかもしれない。それまでは1Dよ、元気でいてくれ。

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