スタンディング・イン・ザ・ブリーチ

ブラウンは70年代に入ってから、どうして多くの人々が60年代には持っていた自由、哀れみの心、寛容といった価値観を失ってしまったのかを考えていた。そんな価値観は、彼の中では今でも鮮やかに生き続けている。そしてブラウンはこのアルバムで、我々に訴えかける。“今、世界が必要としているのは/それぞれが変化することだ”

このアルバム、音楽的には、彼らしいカントリー調のフォーク・ロックである。ブラウンは「テイク・イット・イージー」でアリゾナ州ウィンズローの街角を取り上げ、一躍有名にしたが、このアルバムに収録された「リーヴィング・ウィンスロウ」という曲のタイトルを聞くとそれを思い出さずにはいられない。フォーク歌手、ウディ・ガスリーの歌詞に曲をつけた「ユー・ノウ・ザ・ナイト」同様、ロカビリーのビートに乗せてぐいぐい飛ばしてゆく。

美しくフェードアウトしていく「イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア」には、キーボード・プレイヤーのベンモント・テンチとドラマーのジム・ケルトナーがフィーチャーされている。そのドリーミーなメロディーは、ブラウンが実現可能だと信じているパーフェクトな世界を想像させる。

長くミュージシャンとして活動し、今や66歳のブラウンは、自分の理想が必ずや成就するわけではないことを知っている。しかし例えばジョン・レノンのように、あるべき理想の姿を想像することこそが、よりよい未来をもたらす第一歩だと思っている。もちろん、その次の一歩も重要だ。かつて労働組合でよく謳われていた言葉を使ってブラウンは我々に問いかける。“君はどちらの立場なのか?”

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