2013年3月にリリースされた『魔法が使えないなら死にたい』に続く、大森靖子のセカンド・フル・アルバム。傑作です。大森自身が「女の子」を全面的に肯定し、表現した歌が15篇(うちカヴァーが1曲)。プロデュースを手掛けたのはカーネーションの直枝政広。 まずは本作の弾き語りについて。大森のライヴは基本的にはギター1本で弾き語りするスタイル。時にキュートに、時に感情を剥き出しにして歌うさまは、とても危うくて刺激的だが、ここにはそうしたダイナミックな魅力がしっかりとパッケージされている。その点だけでも本作は特別と言っていいだろう。ここに収められた「PS」や「あれそれ」のこちらに迫ってくるようなヒリヒリした歌声、ハロー!プロジェクトで最も好きな曲だというタンポポ「I&YOU&I&YOU&I」のカヴァーは名演だと思う。しかし、このアルバムを成す要素として、弾き語りはほんの一部に過ぎない。プレイヤーは大森と直枝のほか、ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉や、LA-PPISCHのTATSU、オワリカラのカメダタク、おとぎ話の前越啓輔といった豪華な面々が参加して、楽曲に厚みと彩りを加えている。 全収録曲のなかでも一際キラキラと輝くテクノ・チューン「ミッドナイト清純異性交遊」はアルバム最大のハイライトと言っていいだろう。大森はモーニング娘。の道重さゆみのディープなオタクとしても知られていて、この「ミッドナイト〜」は道重について歌ったものだ。道重の出身地である山口県をフィールドワークして書いた(!)というこの歌には、歌詞のひとつひとつに意味がある。道重と同期メンバーの曲「大きい瞳」を歌詞にさりげなく取り入れたり、楽曲の終盤には“ラララのピピピ”(道重のソロ曲「ラララのピピピ」のフレーズ)というコーラスが出てきたりもして、そのことを知れば知るほどこの曲が味わい深く沁みてくる。また、“アンダーグラウンドから君の指まで遠くはないのさ”という一節は、道重うんぬんを差し引いたとしても、ひとりの女の子が胸に抱く希望のある言葉として心に響く。偏愛にも近い感情が、普遍的なメッセージとしての力を獲得していて、聴いていると何だか泣けてくるのだ。以前、大森のライヴを見た際、この曲をSEにしてステージに上がったかと思うと、特に歌い始めるわけでもなく、ギターを弾くでもなく、フラフラと4分近く踊り続けているうちに曲が終わってしまった。そして「良い曲なんで最後まで聴いちゃいました」と言い放った時は、とてもびっくりしたし、さすがだなと思ったが、何より、彼女自身がこの曲を大事にしていることが伝わってきた。 そのほか、ストレートな女の子賛歌「絶対彼女」、涼しげなポップ・チューン「エンドレスダンス」、途中から突如爆音のノイズが押し寄せてカオスに展開していく「Over The Party」、大森がひとりですべての楽器を演奏したワルツ「プリクラにて」、梅津和時が圧巻のサックス・ソロを聴かせてエモーショナルな世界を演出する「展覧会の絵」、ピアノをバックに歌う厳かな「青い部屋」、アルバム屈指の爽やかな「君と映画」など、いずれもアプローチが異なり、すべてに並々ならぬ熱量が注がれていてる。 2013年を締めくくるにふさわしい濃密な音楽体験が待ち受けているはずだ。

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