ランダム・アクセス・メモリーズ

フレンチ・デュオのダフト・パンクは、現在のスタジアムを揺るがすEDMムーヴメントやコーチェラ等のフェス・カルチャーの流行を作ったアーティストでもあり、そんな彼らの最新アルバムは2013年に最も期待されていたアルバムだった。

『ランダム・アクセス・メモリーズ』は、驚きの連続だ。ジュリアン・カサブランカスがボコーダ・スタイルの霧を通して、彼のキャリア史上最も感情に訴えるかもしれないヴォーカルを披露し、ダンスのゴッドファーザー、ジョルジオ・モロダーがエレクトロ・ジャズ・ファンクの大作で郷愁に浸り、感傷的なポップの教祖であるポール・ウィリアムズ(「愛のプレリュード」)がディスコ・ファンタジアで愛に飢えたサイボーグを演じている。そして、ピンク・フロイド『狂気』とアース・ウィンド・アンド・ファイアー『暗黒への挑戦』の間を行き来する。70分少々に及ぶ、プログレッシヴかつダンス・ミュージック的なコンセプト・アルバムとなっている。

トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストがシンセ&サンプル中心のハウス・ミュージックをブランドとして確立させ、ユーロディスコをリブートし、カニエ・ウェストからスウェーデンのスウェディッシュ・ハウス・マフィアまで多様なアーティストをインスパイアした1997年のデビュー・アルバム『ホームワーク』から随分と経つ。それ以来、さまざまなことが起こった。EDMはメガポップとなり、ダフト・パンクは07年のスタジアム・ツアー後、LAへ向かい、自分たちの活動を再考した。

このアルバムは、そういったことがすべて反映された作品だ。元喫煙者が過激な禁煙派と変わったように、ダフト・パンクもメディア上でEDMを過小評価する。そしてKISSのようにロボットの仮面を放棄することなく、事実上全編生楽器で演奏されたレコードを作り上げた。その素晴らしさは、ほとんど反論できないほどだ。ナイル・ロジャースの見事にファンキーなリズム・ギターが「ゲット・ラッキー」と「ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス」で揺らめき、スタジオのグランドマスターであるオマー・ハキムとジョン・ロビンソンが明らかにループ・トリガーではなくドラムスティックを使って神のブレイク・ビーツを作っている(「コンタクト」)。

伝統的なコンセプト・アルバムの流れから考えるとわかりにくいかもしれないが、この作品にはストーリーも存在する。加工されたヴォーカルが、サイボーグが人間になろうと努力している物語を表現する。現代の我々に通じる話だ。「タッチ」では、ウィリアムズがいつもの大げさに演出されるヴァースをサイバー・コーラスに替え、まるで映画『2001年宇宙の旅』に登場するデビッド・ボーマンのコンピュータ“HAL”とのシーンのようだ。まったくもって滑稽ではあるし、非常に美しく感動的でもある。それは、このアルバムの大部分に言えることだ。ヴァースは陳腐と思われかねないアプローチで、オールドスクールの蜜がたっぷりとかけられている。

しかし、そのクリエイティヴなソウルは明白だ。ここで聴こえてくるジャズ・フュージョンの影響は、熱狂的なディスコの歴史と陳腐なワイン・バーのサウンドトラックを思い起こさせる。そして、“現代”のクラブ・ビーツが不在であることは、衝撃的だ。これは、「エレクトリック・デイジー・カーニヴァル」(北米最大のレイヴフェス)の平均的な参加者のためのアルバムではない。

しかし、もしかすると、そこがポイントなのかもしれない。“大人のレイヴ・ファンとしてのアーティスト・ポートレート”。これがダフト・パンクなのだ。彼らが初めてインスパイアされた音楽の時代─ディスコがブラックライトで照らされたベッドルーム的な世界で、手作りのグルーヴと過度に誇張されたエモーションで世界を征服した時を思い出させる。時に、このアルバムは、アーティスト自身の野望の犠牲者になってしまうかもしれない。が、その目標がここまで高いものでなかったなら、この作品はこれほどまでに素晴らしい内容にはなっていなかっただろう。

RECOMMENDEDおすすめの記事


MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE