ベン・ハーパーは20年もの間その音楽活動を続け、素晴らしいハイブリッドなフォーク・ブルーズを発表してきた。それは、時に政治色を帯び、時に悲哀に満ちており、彼の特徴となっているハイ・テナーのささやきで歌われ、ジミヘンのような炎がひらめくスライド・ギターが鳴り響く。彼のアメリカーナは、大抵、海外でより大きな反響を得てきた。しかし、ザ・ブラック・キーズやゲイリー・クラーク・ジュニア等がブルーズをメインストリームとして復活させている現在、ハーパーの職人技のルーツ・ミュージックが新たな意味を持ち始めている。

そのために、68歳のブルーズマン、チャーリー・マッスルホワイトと共作したハーパーの最高の新譜『ゲット・アップ!』は、完璧なタイミングでのリリースとなる。これは1997年に2人がマッスルホワイトの旧友であるジョン・リー・フッカーと「バーニング・ヘル」をレコーディングした時から計画されていた。ジョン・リー・フッカーは、そこでの彼らのケミストリーに感心し、彼らに続けて活動するように促した。このアルバムでも、2人の相性の良さは最初から明らかだ。互いに絡み合うオープニング・ナンバー「ドント・ルック・トゥワイス」ではマッスルホワイトのハーモニカとハーパーのヴォーカルが見事なダンスを披露し、「ユー・ファウンド・アナザー・ラヴァー(アイ・ロスト・アナザー・フレンド)」ではアンプラグドで演奏、安酒場で足を踏み鳴らしながら楽しむ熱狂的な「アイム・イン・アイム・アウト・アンド・アイム・ゴーン」ではマッスルホワイトのジャリジャリしたハープに合わせてハーパーが低い声域で歌う。

『ゲット・アップ!』の魅力のひとつに、ハーパーのハードにロックするブルーズがある。過剰におとなしくなる時もあるこのパワフルなシンガー/ギタリストには斬新なことだ。こういった音楽はマッスルホワイトの得意とするところでもある。ミシシッピーで育った彼は、努力をたゆむことない世代として工場で働くために北部のシカゴへとやって来た。そして、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフとともにバーでエレクトリック・ブルーズを演奏しながら成人した。彼のヴォーカル・フレーズはサニー・ボーイ・ウィリアムソンをこだまし、その増幅した素晴らしい音色はリトル・ウォルターに敬意を表している。そういったルーツは、熱いハーモニカと猛烈なギター、そして、ハーパーの最もアグレッシヴなヴォーカル「ブラッド・サイド・アウト」で耳にできる。デタラメばかりの国会議員への最高の留守電メッセージも兼ねる裏切られた愛人の三行半「アイ・ドント・ビリーヴ・ア・ワード・ユー・セイ」も同様だ。

ハーパーは連合主義者であるから、伝統に忠実というわけではない。タイトル・トラックは粋なベースラインがスローモーションの宇宙ジャムで鳴り響く。別の無重力ブルーズである「アイ・ライド・アット・ドーン」では、ハーパーの特徴となっているワイゼンボーン・ラップ・スライド・ギターが見事な使われ方をしている。そしてハイライトとなる「ウィ・キャント・エンド・ディス・ウェイ」は、持つ者と持たざる者との間での結束を説教する拍手に促されるゴスペル・ワルツのようだ。

ハーパーがこの世で最も際立ったソングライターでなかったとしても、彼はそれを埋め合わせるだけの緻密さを持つ。その華やかなニュアンスのギター・ワークとヴォーカル・フレーズ、そして彼の大きなスピリットだ。

近年では、一流のコラボレーターとしてブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマとの共作、ジョゼフ・アーサーとダーニ・ハリスンとのフィストフル・オブ・マーシーのプロジェクトを手掛ける。彼は、自分を見失うことなく伝統を超えた飾らない演奏の名人として、マッスルホワイトに自分との類似点を見いだす。彼らは時代を超え、なおかつ、今にピッタリのセットを作り上げた。“長く厳しい一日、つらい夜だった/厳しい人生を送ってきた”とアルバムの最終トラック「オール・ザット・マターズ・ナウ」でハーパーは歌う。偉大なブルーズ・レコードは、ああ、常に時宜にかなっているものなのだ。

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