プラチナ級の成功を収めるという意味では、マムフォード&サンズは誰もが予想しなかった歩みを辿っている。マーカス・マムフォードと彼のロンドンのクルーによる2010年のデビュー・アルバム『サイ・ノー・モア』は、オート・チューンのサイバーポップが溢れる中で発表された。少年聖歌隊のハーモニーとクローハンマー・バンジョー、そして救世軍の金管楽器に包まれた熱狂的な楽曲を収録した作品だった。その後、グラミー賞授賞式でボブ・ディランのバッキングを務め、レイ・デイヴィスとキンクスの名曲をレコーディングし、カーター・ファミリーやルーヴィン・ブラザーズらのストリング・バンドがラジオでもてはやされていたころを見事に復活させたのだった。

『バベル』は、前作からあまり変わることなく、マムフォード&サンズがさらに進化した作品だ。今作では前作よりも艶や力強さが増し、スケールもアリーナ級となり、バンドは卓越した技術を持つ街頭ミュージシャンのように叫び、わめき、弦を弾き、かき鳴らす。収録曲はデビュー作の「リトル・ライオン・マン」や「ザ・ケイヴ」のように、フォーク・フェスティバル向けのストンプといったチューンで、ビールを浴びせるかのようなメロディと拳を突き上げるダイナミクスはデビュー作の特徴でもあった。『バベル』の賛美歌のようなファースト・シングル「アイ・ウィル・ウェイト」や「ラヴァー・オブ・ザ・ライト」は、マムフォード&サンズがU2やスクリレックスに劣らないほどにドラマティックな曲構成と 音量の起伏を操れることを証明する。このバンドが質素な道具でビッグ・ロックのカタルシスをやれることは、今作の魅力のひとつとなっている。

しかし、このアルバムを特徴づけているのは、バンドの歌詞とマムフォードの歌だ。『バベル』は宗教関連の話に溢れ、クリストファー・ノーランの映画に出てくるデトリタスのように聖書にまつわる隠喩が渦を巻く。「ビロウ・マイ・フィート」では、救世主がエッジ風のギターに合わせて呼び起こされる。「ウィスパーズ・イン・ザ・ダーク」ではリヴァーダンスの跳ねるリズムに乗せて、“主に仕える”意思があることをマムフォードは宣言する。アヴェット・ブラザースやザ・ロウ・アンセムといった現在の常軌を逸したところのないフォーク・リバイバルのバンドたちと比較すると、マムフォード&サンズは昔からの宗教を引き合いに出すことが多い。

マムフォードは、福音主義者たちに囲まれて育った。彼の両親はカリフォルニアで生まれたキリスト教運動=ヴィンヤード教会のイギリスにおける指導者で、この教会は非常にポップ通なためにレコード・レーベルを2つほど運営している(ボブ・ディランは70年代にキリスト教にのめり込んでいた時期、この団体のメンバーだった)。しかし、布教活動が『バベル』のミッションではない。リック・ロスが日常の物語に軽さを加えるために教会の要素を投げつけるのに対し、マムフォードはそうすることでラヴ・ソングを複雑で入り組んだものにする。「ラヴァーズ・アイズ」は、裏切り者の抱える罪の意識を取り上げる最高の曲だ。「ブロークン・クラウン」でのマムフォードは、罪人でもあり神聖を汚された人のようでもある。“僕の肉体の痛みは強すぎる”と、感動的なほどに率直に苦しみの叫び声を上げる。不祥事を起こした政治家たちは、この男から少し学んだほうがいいだろう。

金管楽器とグループ・ヴォーカル、そして、ベン・ラヴェットの装飾をさけたピアノに彩られた「ラヴァーズ・アイズ」と「ブロークン・クラウン」(この曲は「リトル・ライオン・マン」のように、“fucked”という言葉を非常に見事な方法で使っている)は、デビュー・アルバムの特徴だったブリティッシュ・フォークの要素がさらに絶妙な形でより多く加えられた楽曲だ。今作ではこういった趣が前作よりも抑えられており、それは残念な点だ。しかし、アレンジメントとマーカス・マムフォードの悩める牧師といったヴォーカルのパワーは、紛れもなく素晴らしいものがある。彼の持つ愛と情欲とキリスト教の精神性の3つが、きちんとした聖書のレッスンというよりも夜明け前の困惑のように聴こえたら、それだけ真実味があるということだ。彼の両親は、きっと誇りに思っているだろう。

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