オディレイ+19(デラックス・エディション)

彼の初期のサウンドはユルさが魅力で、頑張りすぎないところにみんな魅力を感じていた。純粋無垢なミュージシャンを演じるのを好み、自由奔放な歌詞とギターというスタイルは、まるでお気楽なスヌーピーとカート・コバーン気取りのチャーリー・ブラウン、と言ってもおかしくなかった。そんな彼も成長し、彼のさまざまな側面が明かされるようになった。  94年、アメリカの音楽シーンで大きな反響を呼んだシングル「ルーザー」(デビュー・アルバム『メロウ・ゴールド』に収録)。それをきっかけに、彼は臆することなくポップ・レコードを作るようになる。そして完成したのが、96年にリリースされた『オディレイ』だ。このアルバムではダスト・ブラザーズをゲストに迎え、パンク、ヒップホップ、ボサノバ、ラテンはもちろん、R&Bやカントリーといった要素を取り入れている。まるでベイビーフェイスとボブ・ディランが同居しているようなアルバムだ。97年度のグラミー賞でベスト男性ヴォーカル・パフォーマンスを受賞したベック風ヒップホップ・チューン「ホエア・イッツ・アット」や、グルーヴィな「デヴィルズ・ヘアカット」など、名曲揃いである。ちなみにこの年のグラミー賞では、ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンスも受賞している。台風のためキャンセルとなった第1回目のフジ・ロック・フェスティバルにラインナップされたのも、同じく96年だった。  今回リリースされる2枚組のデラックス・エディションには、オリジナル・アルバムの収録曲とともにレア音源、シングルのBサイド曲も収録されている。ディスク1の「ゴールド・チェインズ」「インフェルノ」はダスト・ブラザーズがプロデュースした未発表曲。ディスク2には「ジャック・アス」のスペイン語ヴァージョン、スキップ・ジェイムスの「デヴィル・ゴット・マイ・ウーマン」のカヴァー曲、アンクルやエイフェックス・ツインなどによるリミックス曲を収録。  この『オディレイ』をリリースした後、ナイジェル・ゴッドリッチと共同プロデュースした『ミューテイションズ』(98年)、それまでのベック・サウンドにエレクトロ・ヒップホップの要素を取り入れた『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』(99年)というアルバムを経て、ベックの作風はひとつの完成形を見る。  とにかくこれを聴けば、90年代ロックンロールを駆け足でおさらいできるはずだ。

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