ケイト・ブッシュの6年ぶりの新作の幕を開ける、転がるピアノに乗った9分間の瞑想「スノーフレイク」。それは“わたしは雲の中で生まれた”と始まる。あなたはやがて、その天に突き抜けるような歌声が彼女ではなく、彼女の12歳の息子、バーティのものだということに気づくだろう。それは、冬というテーマの中に心の宇宙を見いだすこのアルバムが仕掛けた巧妙な手品で、架空のスノードームのようだ。ブッシュ自身の歌声には魅惑的な変化があって、彼女は間違いなくアメリカのソウルを学んでいるし、音楽そのものにも、贅沢な雰囲気が漂っている。その歌声は1982年の『ドリーミング』における獰猛な子供とも、『愛のかたち』における風変わりな天使とも似ていないが、崇高と言うしかない。

エルトン・ジョンとデュエットした「ウィーラー街で雪に閉じ込められて」は、彼女がピーター・ガブリエルとコラボした1986年の「ドント・ギヴ・アップ」を思わせる。こちらのほうがもっと風変わりで、タイム・トラベルの物語と、アヴァン・テクノの鼓動があることを除けば。「ミスティ」は雪だるま作りを、息をのむほどセクシーな作業に変え、“彼が手の中で溶けていくのを感じる”と、彼女はまるで失われたオルガズムのためのブルースを歌うように嘆いている。ブッシュの復帰作となった2005年の『エアリアル』は、彼女が形作った21世紀のポップ界(フローレンス・ウェルチやビョークなど)における、自分の立ち位置について考えているようだった。しかし、ここでの彼女は自分独自の世界を見極め、完全にくつろいでいるようだ。

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