コールドプレイの前作から3年の間に、世界が抱える問題はより切迫してきた。穴の開いた経済や、タヒールからトッテナムまでにいたる暴動、いつまでものさばり続けるカーダシアン一家。これらは21世紀に登場した最も巨大なバンドの子守唄をもってしても、解消することができない。クリス・マーティンはそれを知っている。けれどもコールドプレイの5枚目にして最も野心的なアルバムで、マーティンがそれを救おうとしているだけでなく、過剰に心配しているのがわかる。

再びブライアン・イーノの助けを借りて、彼らは今回も2008年の『美しき生命』で向かった、クールで風変わりな芸術家っぽさに手をつけている。しかし、あのアルバムが時として彼らのサウンドを多様化させようという自意識過剰な挑戦に思えたのに対して、ワールド・ミュージックっぽさとU2風のサウンド・エフェクトを加えた今回は、(彼らが言うところの)“イーノ化”を次の段階に進め、自身の核の中心部にまでいたっている。「パラダイス」におけるマーティンの上昇するリフレインを増幅させる、滝のような合唱団風のコーラスをチェックしてほしい。卓越した技術が、音の大聖堂を支える。ジョニー・バックランドのギターはこれまで以上にリフっぽく音楽的で、ユーロハウス風のシンセは、イビザのナイトクラブともそう遠くない。

あからさまな政治的声明は、マーティンの関心事ではない。彼は人々を勇気づける仕事をしているのだ。『マイロ・ザイロト』で、彼は午後の紅茶のように甘くて温かい歌声で、忍耐について説くのが得意なそこそこイケてる男としての、自分の役どころを満喫している。アルバムの終盤で、彼が「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム」風のギターに乗せて“君の心を傷つけるな!”とささやく頃には、あなたは彼が自分の歌うことを信じている、霊感商法の売人か何かだと思わずにはいられないだろう。

奇妙なことに、最高の瞬間は最も暗い曲で訪れる。「プリンセス・オブ・チャイナ」はリアーナが参加した、喪失と後悔についての曲だ。これはジェイ・Zのシャンパン昼食会で実現した共演に違いないが、シンセ・ファズのグルーヴは、そっけなくて魅力的だ。この曲の後には「アップ・イン・フレイムス」という、ミニマルでスロウなジャムが続く。マーティンは、別れがいかに世界の終わりのように感じられるか、あるいは本当の世界の終わりについて赤裸々に歌っているが、どちらにしても最後の子守唄としてはたまらなく心地良い。

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