BIGYUKIが語る、ブラックミュージックの最前線で戦う日本人としての経験と葛藤

BIGYUKI(Photo by OGATA)

NY在住のキーボード奏者、BIGYUKIがニューアルバム『Neon Chapter』をリリース。ア・トライブ・コールド・クエスト、J・コール、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンなどと共演し、ブラックミュージックの最前線で活躍してきた鬼才の新境地とは。そして、日本人でありながら単身アメリカに飛び込み、アフリカン・アメリカンのコミュニティと音楽を奏でてきた彼は、自分の「異物感」とどう向き合ってきたのか。

【画像を見る】BIGYUKI、2021年10月のライブ写真(全12点)

―今回のアルバムは、昨年のEP『2099』とはずいぶん違った感じの作品になりましたね。

BIGYUKI:実を言うと、『2099』はアルバム用に作った音源から何曲か選んでリリースしたものだったんです。『Neon Chapter』もその一部なんですけど、その中でも音楽的に振れてる曲を今回は選びました。だから雰囲気は違いますよね。バラードが入ってないんですけど、その代わりにエリック・ハーランドと中村恭士とのピアノトリオ的な曲「Theia」を置いています。あの曲は俺の中でバラードですね。

―音楽的なコンセプトを教えてください。

BIGYUKI:今までアルバムを出した時にもよく言われたし、自覚もしていたんですけど、アルバムのバージョンとライブのバージョンが全然違うんですよね。BIGYUKIはアルバムは小綺麗にまとまっているけど、ライブではすごく肉体的なものになる。ライブを観てからアルバムを聴くと、ちょっと物足りなく感じると言われたこともあります。だから、今回はアルバムにもライブのエネルギーを入れたかったんです。どうしたら内包できるのかずっと考えていました。今回はそれが実現できた気がしますね。



―その「ライブ感」と繋がるのかはわからないけど、ピアノをかなり弾いてるのはこれまでとの大きな違いですよね。

BIGYUKI:以前、日本でピアノ・ソロのライブをやったんです。

―今年3月にCOTTON CLUBとGinza Sony Parkでやってましたよね。今まではやってなかったから、意外だなと思ってました。

BIGYUKI:これまではピアノに対して少しビビってたところがあるけど、ライブをやったり、そのためにトレーニングしていたら、俺はやっぱりピアノが好きだし、ピアノを自分の表現方法のひとつとして確立させたい気持ちも出てきた。俺のアルバムにはプロダクションがヘヴィな曲もあるので、聴いた人は俺が何やってるかわからないと思うんですよ。その点と点を繋ぐヒントがピアノなんじゃないかなと考えるようになったんです。俺がピアノを弾いて自由に世界を作っていくと、この人はこういう風に弾いてて、頭の中にこういうものがあって、それがピアノじゃなかったら、ああいう(プロダクションの)音楽になるのかな、みたいに連想しやすくなると思って。


2021年3月に池袋・STUDIO Dedeで収録された「Portrait Of An Angel」(ロバート・グラスパーのカバー)のソロ・ピアノ・パフォーマンス映像

―改めて、自分のピアニストとしての個性はどんなところにあると思いますか?

BIGYUKI:リズムやコードの積み方に関しては独特なものがあると思います。一方で、フレージングに関してはボキャブラリーが限られている。その中でどう組み立てて、一つの流れとして成立させることができるかを考えながら演奏していますね。昔、クラシックをやっていた時から、演奏していると、外の世界から分かれていく感じでその音楽の中に没入していくことがあるんだけど、もっと上手くなったら、その没入していく自分を冷静に見るような視点もできると思ってる。

今はボキャブラリーを増やしたいのと、ピアノ自体のコントロールをもっと上手くなりたいですね。小さい音を弾いたときにすごく鳴るピアニストがいるんですけど、俺もそういう風に表現したいんですよ。今は音量の小さいところで弾く表現の浅さをコンプロマイズ(妥協)するために、ガシガシ音量を上げようと弾いたりするところがあるから。抑制された中での表現の幅をもっと広げられたらと思ってます。


2021年10月7日、ビルボードライブ大阪にて

―フレーズではなくてリズムとハーモニーが特徴ということですけど、それが作用しているのか、ピアノを弾いてもいい意味でジャズにはならないのがBIGYUKIの面白さだなと思うんですよね。それにアルバムに関しては、ピアノ以外の部分はシンセが多いし、左手はベースラインを弾いてるし、サウンドもアトモスフィックだけど、ピアノを弾いてる曲と並んでも違和感がないのは、リズムとかハーモニーに特化した独特の演奏をしているからかもしれませんね。

BIGYUKI:そこは自分の強みでも弱みでもあると思うけど、異物感ですよね。ファンクション・プレイになり切れなくて、カマシ・ワシントンと演奏していても、誰と演奏していても自分の中の変な部分が出てしまう。だから、それを面白がってくれる人と俺はやっていくんだろうなと。俺は何を頼まれてもソツなくこなすオールラウンドなセッション・プレイヤーではないですから。今は自分の変なところを尖らせていきたいと思っています。音楽をやるにはファウンデーション(基礎)がありますよね。ヘタウマだと表現できる限界がある気もするし、楽器のコントロールに関しては自分で練習して、いけるできるところまでいきたい。そのうえで、自分の異物感としての部分を研ぎ澄ませていきたいですね。もちろんセンスも良いままで。

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