デヴィッド・ボウイが黒人差別を訴える、MTVインタビューを回想「放送局は公正であるべき」

1983年、創業したばかりのMTVにインタビュー出演をしたデヴィッド・ボウイ

フロイドさんの事件をきっかけに、Black Lives Matter運動が世界中で激化している。1983年、創業したばかりのMTVにインタビュー出演をしたデヴィッド・ボウイは、当時ブラック・ミュージックをオンエアしない当局に対し、正面から問い詰めた。その感動的なインタビューを回想する。

2016年1月10日にデヴィッド・ボウイが亡くなったという驚愕のニュースが世界を駆け巡ったあと、世界中の人々が涙にくれながらボウイの古いレコードを引っ張り出し、50年にわたる輝かしいキャリアの瞬間をとらえた映像を見返した。そのなかでももっとも興味深い映像が、MTVのVJマーク・グッドマンによる1983年のボウイのインタビュー映像だ。実際、この映像はMTVを礼讃する内容ではない。アルバム『レッツ・ダンス』のプロモーションのかたわら、ボウイは創業3年目を迎えた音楽専門チャンネルに黒人アーティストのミュージック・ビデオを放送しない理由をたずねた。「ここ数カ月間MTVを観て言えるのは、MTVが多くの人に指示されるしっかりした事業だということ」とボウイは言う。「ただ、フィーチャーされる黒人アーティストがあまりに少ないのは驚きだ。どうしてだろう?」

質問をぶつけられたグッドマンはかなり気まずい思いをする。そこで、彼は雇い主であるMTV擁護に走る。「僕個人としては、その方向に進もうとしていると思います」とグッドマンは言う。「MTVは、自社がオンエアしたいと思えるような音楽性を備えたアーティストの楽曲をフィーチャーしたいと考えています。会社としては、特定少数を対象としたキャスティングを狙っているんです」グッドマンの中途半端な回答は、ボウイの質問に対する答えにはなっていない。「ごく一部の黒人アーティストがオンエアされるとしても、午前2時半から6時の時間帯と限定されている」とボウイは言う。「日中に大々的にフィーチャーされるのは、そのなかでもわずか一握りだ。この2週間にわたって状況は変わってきているけれど、そのプロセスにはスピード感がないね」。

いまになってグッドマンは後悔しているだろう。彼は、地理的要因にもとづいて会社の判断を説明しようと試みた。「僕らは、ニューヨークやロサンゼルスの視聴者だけに受け入れられるのではなく、ポキプシー(ニューヨーク州北部の都市)や中西部——MTVでオンエア中のプリンスやいくつかの黒人アーティストの名前を聞いたとたん恐怖で縮み上がってしまうような中西部の街を想定してください——の人々にも気に入ってもらえる楽曲を提供しなければいけません。MTVは、アメリカ国民全員に受け入れられる音楽を提供しなければいけないのです」。

黒人アーティストであるプリンスの顔がアメリカ中西部の人々を恐怖に陥れるかもしれないと聞かされたボウイは、苦笑をこらえることができない。さらに、1983年のティーンエイジャーはアイズレー・ブラザーズのようなアーティストが好きではない、と主張するグッドマンに対し、正論すぎる応酬をしている。「17歳の黒人にとってアイズレー・ブラザーズやマーヴィン・ゲイがどんな存在であるかを教えてあげよう」とボウイは言った。「当然ながら、彼らだってアメリカの一部だ。これがいかに危険な状況か君には想像できるかい? 放送局というのは公正であるべきじゃないのかな? 君のような考えは、アメリカのメディアに蔓延しているようだ。メディアをいまよりも平等なものにするために立ち向かうべきではないのだろうか?」

1967年と状況は違うのだから、白人の子供のなかにはブラックミュージックを聴きたがらない子もいるとインタビューの終盤で弱々しくグッドマンが語る一方、カメラは一気にズームインしてボウイの表情を映す。「興味深いな」とボウイは言う。「どうもありがとう……君の言いたいことはわかった」。

当時のインタビューでは、マイケル・ジャクソンの名前が一切あがっていない。だが、1983年といえば、彼が「スリラー」と「ビリー・ジーン」のMVを発表した年だ。これらのMVはニューヨーク、ロサンゼルス、ポキプシー、中西部はもちろん、世界中の子供たちを魅了し、人気のあまりMTVはブラックミュージックへのアプローチを改めなければならなかった。だが、それよりも前にMTVにダイレクトに訴えたデヴィッド・ボウイは、数少ない勇敢な白人アーティストのひとりである。ボウイの輝かしいレガシーのなかではささやかな瞬間だが、30年以上の時を経て見返すと感動的だ。

※編集者による追記:この記事は、2016年1月13日に公開されたものです。

・デヴィッド・ボウイ過激な発言7選

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE