ゾンビ映画の金字塔『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』公開から50年

もし10年早く公開されていたならば、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』はマッカーシズムを揶揄した作品のひとつに過ぎないと捉えられただろう。ホラームービーがブームとなっていた10年後に公開されていれば、登場する生きた屍たちは感覚の麻痺した一般市民たちの比喩として受け止められたかもしれない((『ゾンビ』がそうだったように)。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、当時のアメリカが抱えていた混乱と分断に正面から向き合った作品だった。今観ると、歴史的事実をフィクションとして描いただけのように思えるかもしれない。しかし、同作に登場する生ける屍たちが呼び起こす恐怖感は、ゾンビ映画がすっかり一般的になった現在でも決して薄れていない(ロメロはゾンビという言葉をずっと避けてきたが、彼の作品がその言葉を世間に認知させたという事実については誇りに感じているという)。その5年前にはスプラッタームービーのゴッドファーザー、ハーシェル・ゴードン・ルイスの『血の祝祭日』が公開されていたが、同作もまたDIYに徹した作品だった。キャラクターたちのメイクをコミュニティカレッジの学生たちが担当し、ゾンビが食べる内臓を地元の肉屋が提供したという低予算ぶりは、同作が煽る恐怖感を少しも乏しめていない。少女が地下室で母親を襲う場面に対するツッコミ(噛み付くのではなく、なぜわざわざこてを使って殺そうとするのか?)は多いが、あのシーンは抑圧された人間が抱えた感情の根深さを見事に描き出していた。たとえ新鮮さは失われても、その衝撃が和らぐことはない。

フランチャイズ化した同シリーズは言うまでもなく、無数のヨーロッパ産ゾンビ映画、人気ドラマ『ウォーキング・デッド』など、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』に端を発する作品は数知れない。各作品に登場するゾンビたちの特徴やストーリーの類似性についての議論は、今後も決して尽きることはないだろう。しかしロメロが産み出したその母体には、小さな劇場のマチネーで同作を観た子供たちの笑顔や怯えた表情が目に浮かぶような、誰もが残している童心に訴えかける魅力がある。くすくすという笑い声は、次第に悲鳴へと変わっていく。ピッツバーグから発せられたその叫び声は、やがて世界中に響き渡っていった。

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE