スカート最新シングル『遠い春』のアートワークができるまで

左が初回限定盤、通常盤共通のCD(ピクチャーレーベル仕様)、右が初回限定盤DVD

デザイナーは、いつだって「噛み付かれて」いる……。トーベヤンソン・ニューヨークのギタリスト、アートディレクター/デザイナー森敬太が、「現実との格闘」を赤裸々に語る連載「リアリティ・バイツ」。第1回は現在制作中の澤部渡のソロプロジェクト、スカートの最新シングル『遠い春』について。

※この記事は9月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.04』に掲載されたものです。

あーそろそろシングル出そうなのに連絡ないな俺なんかやらかしたかなーそれともあれですか遂に巨匠にデザイナー交代のパターンですか、またそれかよー世の中全然優しくないなー俺に。もう入滅も視野に入れて横になりますよ私は、と静かに目を閉じたところにカクバリズム・角張社長から焦り気味の依頼メールが届くというパターンでいつもスカートのCDデザインは始まります。

社長のメールの文面に漂うほのかな緊迫感から非常にタイトなスケジュールが予想されるのですが、この時点では毎度依頼どうもありがとうございますという気持ちが辛勝、とりあえず胸をなでおろし再び目を閉じます。

タイトなスケジュールなのは関係者が皆忙しいから。故に全員揃っての初回打ち合わせは一週間後と、かなりのゆったりペースで設定されました。その間にアートディレクター/デザイナーの私がやるべきことは、一回の打ち合わせで全員が出来上がりをイメージできるように資料を集め、何もかもがバシッと決まる、踊るようなプレゼンの準備をしておくという作業です。恐ろしいことにこの時点で私が知らされているデザインのヒントとなる要素は「メジャー1stシングルです」という一言のみです。しかしこの一言からなんとかするのがプロの仕事、まずは全体のフォーマットから考えます。

『CD』の意味がオブジェクトからメディアに急速に移行した昨今において、スカート澤部くんはオブジェクトとしてのCDに非常に強いこだわりを持つ巨漢アーティストなんですよ。なので、彼の作品を担当できるのはデザイナー冥利に尽きるというもんなんです。スカートのカクバリズム所属後最初のシングルにあたる『静かな夜がいい』(2016年発売)の設計を思いついたときに考えたのは、音を収めるという最も大事な機能を持っているのにも関わらず、デザインにおいて一番おろそかな扱いをされているのは盤ではないか、ということでした。プレーヤーに入ってたら見えないし、歌詞カードと違って眺められることも少ないだろうしなんだか不憫。そこで思いついたのが、盤面をジャケとして機能させるようにクリアケースに丸出しで収め、歌詞カードは小さく折りたたんだものを封入するというジャケットレスの肝っ玉仕様でした。このコンセプトに澤部氏も賛成してくれ、写真家・宇壽山貴久子さんがiPhoneで撮影したスナップ写真を仕上り寸法の10倍程度の大きさで出力して人力コラージュ後撮影、水糊の跡や飛んできた虫なんかも写り込んでいるモノ感溢れる写真をメインビジュアルに据え、手書きの文字が引っ掻いたように銀色の盤面を露出させるナイスなオブジェクトが完成したのでした。モノとしての強度が非常に強いフォーマットなので今回も引き続きこの方向で行こうと提案することを自分内決定。




『静かな夜がいい』スカート   Photo by Junichi Higashiyama

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