メタリカが語る、こだわりのウイスキー造り「超低周波のサウンドを樽に聴かせるんだ」

このプロセスがまだ特許出願中なこともあって、ピッカレルは詳しい説明は避けているが、ブランデー樽には木材化学物質がたくさん含まれていると明かした。「表面にはウッドキャラメルがある。樽を焼くことで焦げ目をつけられるし、この焦げ目の真下にはレッドレイヤーと呼ばれるものがある」とピッカレル。「ウッドシュガーが燃えるスレスレの高温でキャラメライズする場所がこのレッドレイヤーというわけだ。焦げ目の真下にはキャラメルがたくさんあって、私が目指しているのはウッドキャラメルをもっと引き出すことだ。木材の間膜が破壊されるに従って、ヴァニラのような香りと味を持つ6種類の合成物が生成される。実際、この6種類のうちの1種類がはヴァニラだ。音波振動で木材とウイスキーの相互作用を強化できるとなると、樽の持つ良さがより多くウイスキーに入り込むことになるんだ」。つまり、究極はウイスキーのキャラメル風味に深みを与えることだ、とピッカレルが言う。

彼はこの手法を科学的に証明したいとも言っている。「ウイスキーの色に影響を与えていることは比色分析データで証明できる。特許が受理されたら、この手法に関する科学データを発表する予定だ」と。

ピッカレルがこのプロセスのインスピレーションを得たのが、陸軍士官学校で士官候補生だった頃だ。学内の教会の案内係になった彼は、教会のオルガン奏者デイヴィス博士と仲良くなった。何年もの間、教会のオルガン奏者はオルガンを増築していて、現在はパイプの総数が2万3000本を超えている。ある日、デイヴィス博士がピッカレルにプライベート・コンサートを行い、バッハの「トッカータとフーガ ロ短調」(オペラ座の怪人を思い出してほしい)を演奏して、一番低い音符を弾いてオルガンのフルパワーを見せてくれたという。ピッカレルの言葉を借りると、このときの振動は16ヘルツだったらしい。「振動の回数を数えられるほどで、内臓にズシンと響いた」とピッカレル。あまりのパワフルさに、この音を長く弾き続けると建物全体に悪影響を及ぼすとデイヴィス博士が言ったことを、ピッカレルは今でも覚えている。

「それが非常に魅力的に思えた」と、ピッカレルが続ける。「今回このプロジェクトが本格的に始動したとき、私は『あの振動を試すときが来た』と言ったんだ」。メタリカとマイヤー・サウンドに仕事上の付き合いがあることをピッカレルは知っていた。マイヤー・サウンドはメタリカがコンサート時に使用するサウンドシステムのコンポーネントを造った会社で、トゥルージロが希望したギターケースサイズの巨大なサブウーファー(トゥルージロはこれを「棺桶」と呼ぶ)を開発してもいた。そして、彼らはメタリカの楽曲の超低周波を樽に聞かせたのである。楽曲のプレイリストはメンバー4人が作ったものだった。「彼らのクリーンで粒立ちの良いリズムがこのプロセスをアシストしたが、超低周波のブンブン鳴るサウンドを樽に聞かせるだけで影響を与えられると確信している。また、超音波で樽自体を跳ね返させる影響も大きいと思う」とピッカレル。

「つまり、大事なのは低周波の下にあるスーパーサブ(※可聴周波以下の音)だ」とウルリッヒ。「車を運転していて、横の車線を走る車から重低音の曲が聞こえてくることがあるけど、その音って聞くよりも感じる方が多くないか? そうなるのは耳に聞こえない周波の音が空気と分子を動かしているからなんだよ」と説明する。

Translated by Miki Nakayama

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