米ジャーナリスト・デヴィッド・サイモンが語る、メディアと政治の惨状

―Twitterで色んな人と議論を交わしていましたが、あれは楽しんでいたのですか?

楽しんではいなかったね。僕が思うTwitterの問題点は、やっている連中が馬鹿ってことさ。これは今でも変わりない。つまり、連中は誰かを誹謗中傷したり、ゲッペルズ並みの大嘘を言っているだけってこと。誰かが「アンソニー・ボーディンが闇の国家に殺された」とか、例の国境にいた女性も子供も犯罪者だから、母親と子供が引き離されても当然だと投稿したとする。投稿に反応したいと思うと、Twitterは二者択一を要求してくるのさ。一つは投稿を無視すること。これによってこの嘘はそれ以上広まらないし、止めるという点で攻撃的とも言える。もう一つは、その投稿を真剣に捉えて、自分の怒りを爆発させること。ほんと、これは1935年に逆戻りしたのと同じだよ。ユリウス・シュトライヒャーやヨーゼフ・ゲッペルズが「ユダヤ人はキリスト教徒の赤ん坊の血を飲む」と言ったら、まともな人間は「そんなことはない。彼らがキリスト教徒の赤ん坊の血を飲む証拠などないから、これは嘘だ」と、冷静に反応するのが普通だ。しかし、冷静に反論する代わりに「クソくらえ、この反ユダヤ主義野郎」と、感情を爆発させるのがTwitter流なんだよ。

―そんなことを言ってしまったがゆえに、あなたはTwitterから出入り禁止を食らったと?

ああ、そうだよ。連中は「ナチにそんな口を利いちゃいけない」って言ってきた。僕はTwitter上の悪人を排除しろって言っているわけじゃない。Twitter自体は悪いことじゃないけど、これがきっかけで物事が悪い方向に進む危険性を秘めているって言っているだけ。最終的に彼らは僕を排除した。「怒り死んでしまえ」とある男に言ったことを理由にね。このツイートは絶対に消去しないよ。第一に、(TwitterのCEOの)ジャック・ドーシーに怒り狂って死んでしまえって言っても、それが脅迫にはならない。死を誘発するほどの皮膚疾患を引き起こすような生物因子は一つも持っていないもの、僕。みんなはこれが悪ふざけだって理解していると思うよ。みんながよく言う「くたばれ!」と同じさ。本気で相手が死んでしまうことを願っているんじゃなくて、「くだらないことを言うな」って言っているだけのことさ。特定のグループや特定の個人に対して誹謗中傷する人間や、嘘だとわかっていることを得意げに広める人間、そんな投稿を広める手伝いをするボットに対する普通の反応だとアルゴリズムが認識でないなら、そんなプラットフォームはクソくらえさ。

―あなたの口の悪さは天下一品ですが、罵倒語の師匠がいたのですか?

そうだな、僕は警察署の所轄内と街角で育ったから。それに21歳以降は「メールディクタ」に貢献できるくらい最高のフィールドワークを経験してきた。「メールディクタ」のスペルを教えようか?(※メールディクタ=罵倒語などの攻撃的な表現について説いている学術書)

―今年6月、メリーランド州アナポリスで起きたキャピタル・ガゼット紙の襲撃事件で元同僚を何人か失いましたよね。あの事件はこの国にとって重要な出来事だと思いますか?

僕としてはそう思いたいが、現アメリカ大統領は、銃撃事件の後すぐさまジャーナリストを悪い人間だと呼ぶ、元の態度に戻った。もっと多くの人々が報道局に侵入して、そこで働いているジャーナリストに暴力をふるう事件が増えるような文化と風土を作っているのが、当のアメリカ大統領だと僕は確信している。そして、彼が襲撃犯と共犯という判断する基準は、襲撃犯が事件を起こす前に怒りや苦情を表してか否かじゃない。彼らは全員何らかの苦情や怒りがあるんだ。また、襲撃犯が精神的に病んでいるか否かも基準ではない。大統領の共犯を判断する基準は、ジャーナリストがアメリカの新基軸にとっての敵となると提示することで、このような事件を煽っていないか?という点だ。つまり、ジャーナリストは社会の悪だ、と。大統領はそれを明言している。当局が彼らの死の原因を作った罪でトランプを拘束しない理由が理解できない。殺されたジャーナリストのうち2人は知り合いだった。彼らはジャーナリスト志望の人間が持ち得るあらゆる思いと情熱をジャーナリズムに傾けていた。ジャーナリストという仕事では金持ちにはなれない。新聞のレポーターになりたいと決心した時点で、もっと金持ちになれるたくさんの仕事に別れを告げたことになるんだ。

―もし、今のあなたが大学を出たばかりだとして、ジャーナリズムの仕事に就くと思いますか?

この仕事を避けることはできないって思う。僕が育った家はノンフィクションの文章とジャーナリズムが崇拝される環境だったから。家には最新の出来事や歴史の本がたくさん入った本棚が複数あったし、ワシントンの新聞3紙全部とニューヨーク・タイムズ紙の日曜版を購読していた。そして、夕食のテーブルで家族が話すことは時事問題だったり、ジャーナリズムだったり、文章の書き方だった。ジャーナリストになる道が決まっていたって感じだね。

―自分と反対の政党を支持する友人や家族との距離感を変えずに上手く話をする方法は何でしょうか?

そんな方法、あるのかね。21世紀版チャールズ・カフリン司祭(=トランプ)への敬慕を持つ人を説得する方法ならあると思うけど、自分にそれが出来るのかは別の問題だ。まあ、ろくでなしをぶっ潰して、まともな人間を集めるしかないと思うよ。

―共和党のリーダーたちがトランプに対抗するために必要なものは何でしょうか?

共和党は、その基盤自体をあまりにも辱めてしまっているから、僕にはそれを表現する言葉すら見つからない。かつての自分は保守主義の核となる価値観のいくつかに反対することができたし、政治的な議論の中に今でもその価値観を見つけることがある。しかし、現在の共和党は原理原則も価値観も信念も空っぽに見えて、共和党員として何をしたらいいのか、まったくわからない。いかなる代償を払っても勝つことが今後も生き永らえる方法だということ以外はね。半分でも脳みそが動いていれば、現状を見たら「長い目で見ると、これは誰にとっても害になる」とわかるはずだ。左翼がこれをするのは見たくないだろう。共和党が最高裁判所でやったこと、あんな方策はどっちの党にもやってほしくない。でも、現実はそれが起きているのさ。

―さっきアンソニー・ボーディンの名前が出ました。彼が自殺したあと、とても美しい追悼文を書きましたよね。彼に何が起きたと思いますか?

トニーのことは僕には説明できない。トニーには僕には推し量れない側面がいくつかあると思う。追悼文に書いたように、彼の横にいたとき、彼の本を読んだとき、彼と時間を過ごしたとき、彼と仕事をしたときに経験したことは、こんな結末への準備にはならなかった。彼は本当に賢くて、分別があり、積極的に世界と接していたから、彼の最期は本当に悲しいものだった。知っているつもりで、実は知らないことが多かったこと、そして人というのは互いのことをよく知らないことを痛感したよ。とても腹立たしいし、恐ろしいし、痛ましいよ。

Translated by Miki Nakayama

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