米ジャーナリスト・デヴィッド・サイモンが語る、メディアと政治の惨状

Illustration by Mark Summers for Rolling Stone

米ジャーナリスト、そしてベテラン・レポーターでありTVドラマ「ザ・ワイヤー」のクリエーターでもあるデヴィッド・サイモン。最近のジャーナリズムと政治の惨状を嘆き、友人アンソニー・ボーディンと人生最大の後悔についてローリングストーン誌に語ってくれた。

米TV人気シリーズ「ザ・ワイヤー/The Wire」と「Treme(原題)」のクリエーターであるデヴィッド・サイモンは、最近「The Deuce」の第2シーズンの撮影を終えたばかりだ。これはポルノ業界の誕生を描いた作品である。今回、サイモンはローリングストーン誌の電話取材を快諾し、幅広いテーマで語ってくれた。元バルティモアサン紙のレポーターだった彼も58歳になり、羨ましいほどの饒舌さで、しっかりと語る様子には加齢による衰えは一切見えない。加齢の影響があるとするなら、アメリカ文化と民主主義の行方について以前よりも熱い意見を述べるようになったことだろうか。

―これまで受けた一番の助言は何ですか?

まだ駆け出しのレポーターの頃、非常に聡明なジャーナリストが僕に「会見場で馬鹿になることを恐れるな」と言った。その後、レポートを重ねるごとに、そのジャーナリストが言った言葉の真意を深く理解するようになったね。つまり、会見場では馬鹿げた質問など一つもないということ。取材対象に彼らの人生や彼らが生きる世界の話をしてもらいたいときに取るべき説得方法に、ご法度は一切ないってことなんだ。それが後にみんなの笑いの種になるなら、それはそれで構わない。読者に紹介するストーリーがちゃんと手に入るのならね。この助言は本当にユニークだよ。だってレポーター時代、馬鹿げた質問を避けるレポーターや、質問するまでその事案について知らなかったことをひた隠しにするレポーターを数多く見たから。ジャーナリズムの何たるかや情報収集の必要性を鑑みたとき、彼らのやり方は本当に悲劇的としか言いようがないよ。

―レポーターとして身の危険を感じたことはありますか?

一度ある。書籍「The Corner(原題)」を書いていた頃、強盗にピストルで脅された。ただ、あれは普通に街角で起こる強盗だったよ。もちろん、気分は最悪だったけど。でもね、あの頃は、バルティモア市内の物騒な地区にわざと行って、自分がリスクを厭わないレポーターだと見せつける連中が本当に腹立たしかった。意味がないって思っていたよ。「ここはベイルートじゃない。ボルティモアだぜ。落ち着けよ」って。あそこの住民は運が悪ければ事件に出くわすけど、あそこ以外に居場所がなかった。でも、あのレポーターたちは報道局という帰る場所があったわけだ。

―報道局が出てきたところで、ニューヨーク・デイリー・ニュースが身売りしましたよね(※2017年に新聞大手トロンク社に1ドルで買収された)。地元の新聞を救う手立ては何かありませんか?

本当にひどい状態だ。ここ20年、新聞業界のリーダーシップが明らかに悪化してきている。メリカの新聞ヒエラルキーの天辺にいるニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは、彼ら独特の大して仕事をしなくても給料がもらえる“閑職”が収入源の変化によって脅かされたとき、けっこう上手く適合したよ。ああいったニュース会社の存在の重要性を知らしめる、飾り的な国際ニュースと国内ニュースというのがあるんだ。でも、彼らは地元のジャーナリズムには無関心で、アメリカ国内の中小都市にある市議会、警察署、学校のシステムに関する記事などには興味を示さない。かつてのアメリカ社会では、それがどんな辺境の地の出来事であっても、本能的に書かないとダメだと思う記事を掲載することがジャーナリズムの根幹だった。その部分が崩壊して、骨抜きにされてしまったのさ。それこそ、新聞業界の足首にできたガン細胞が膝を侵食して、太ももを侵食したけど、それがワシントン・ポストに転移する前までは、このガン細胞の広がりに目をつぶったわけだ。そして、やっと反応したのはいいけど、自分たちの問題で手一杯になった。ジャーナリズムのトップに君臨するメディアは定期購読の新しいモデルを導入することで、少なくとも自社メディアを維持することはできた。でも、彼らが自分たちの問題に気付き、解決しようとした時点で、ガン細胞は胸まで広がっていたんだよ。

―何か解決方法はありますか?

実感していることは、金を払う価値があると人々が認める商品にならない限り、この業界の未来はないってことだ。あらゆるニュース会社が最終的には、新しい定期購読モデルに行き着くと思うし、そうなると部分的な無料公開の有無にかかわらず、有料購読者しかアクセスできないコンテンツが生まれることになる。一般的に商品に金を払う購買者がなければ業界は成り立たない。馬小屋の扉を開け放って大事な馬を逃してしまったマザーファッカーたちは、今ではみんなゴルフコースでゴルフを楽しむ人生を謳歌している。この業界をゴミの島にした張本人たちは全員、給料だ、退職金だ、年金だとしっかり大金をもらった。その上、まだトロンク社と関係している連中は、業界をぶち壊すたびにいまでも金をもらっている。連中は新聞の息の根を止めるまで金をもらい続けるだろうね。

―現在のメディアがこれほど大衆に嫌われる理由は何ですか?

僕たちは昔から大衆に嫌われていたよ。だって政治哲学まで切り込んだことがこれまで一度もなかっただろう。その理由は、ハッキリ言うと、現大統領ほど堕落したモラルの持ち主が一度も出現しなかったからだ。トランプはアメリカの原理を利用しているんだよ。そのやり方はヒューイ・ロング以来、合衆国リーダーが決してやらなかった方法だ。これは全体主義と手を結んだポピュリズムさ。このレベルまで到達できるほど倫理が欠如している人物は、これまでほとんど表舞台には現れなかったが、常に存在はしていた。レポーターをしていると肌でそれを感じたし、僕たちは毎日配達される新聞の中に激怒した人間のニュースを読んでいた。新聞のページ内で自分が指示する候補者がちゃんと扱われていないとか、敵対する候補の悪いニュースが少ないとか、怒るわけだ。自分がとっている新聞に対して怒りを覚えるのは、かつては神に与えられた正当な権利だった。もう一つ、世の中が変わったきっかけがソーシャルメディアの登場だ。こいつのおかげで、現在は一つのはずの現実に別バージョンがある。論争に参戦した理由の一つが、Twitterがまだ主流メディアになる前から、Twitter上で国民の多くが信じてしまう物語が作り上げられていたからなんだ。つまり、しっかり訓練されたプロの編集者やレポーターが報道する前に、嘘や偽の情報が世界を半周していたってこと。

Translated by Miki Nakayama

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