渡辺志保×DJ YANATAKE「日本のヒップホップにも恩恵、変容するストリーミング・サービス事情」

渡辺志保:前回も話題に出ましたが、依然、ストリーミング配信サービスの勢いはどうでしょうか?

DJ YANATAKE:だいぶ日本でも根付いてきた感じはしますけどね。SpotifyやApple Musicなどを使っていると話題になることも、圧倒的に増えたと思う。ただ、日本でストリーミング・サービスが広まりにくい理由、というのはいくつかあって。やっぱり日本人は、好きなアーティストの楽曲はCDで買うのが正義、という感情がまだ多数派なのかなと。手に取ってアートワークも楽しめる、音質もよくてパッケージとして完成されているなら、そっちを選ぶのもわかる。でも、結局今の時代って、CD自体は(パソコンに)取り込んだら終わりだし、CDプレーヤーでちゃんと聴いている人の割合ってどれくらいなんだろうとも思う。あと、利益率が高いという理由で、アーティストとしてはCDを買ってほしいという理論もわかるから、CDがダメだとかCDが無くなるとも思ってない。でも、そこにはもう未来がないとも思うんですよね。

渡辺志保:そのあたりの意識は、アーティストにも影響していますかね?

DJ YANATAKE:Apple Musicとかを使ってる人が増えてきたと同時に、やってる側(=アーティスト側)も、意外と儲かるなって感じ始めてる人が増えてきたとも思う。カタログの曲を増やせば増やすほど、毎月入ってくるお金も増えてくるというか。ラッパーの人がどんどん曲を出し続けるのはこういう理由もあるんじゃないかと思ってるくらい。CDって一回発売すると、それなりにお金が入ってくる期間は短いじゃないですか。ストリーミングだと、曲さえ置いておけばアーティストには毎月ほぼ一定の金額が入ってくるし、その金額も、ある程度見えてくるそうなんですよ。となると、会社を運営しやすいとかって利点もあるみたいで。前回も言ったけど、最近ついに、日本のヒップホップ・アーティストもデジタル配信よりもストリーミング・サービスでの売り上げの方が増えてきたという人も出てきたんです。

渡辺志保:ユーザーが増えて、やっとアーティストのところにも利益が還元され始めた、という感じですかね。

DJ YANATAKE:あと、ダウンロードして購入するってことも、CDを買うより時代遅れ感が出てきちゃってる感じもする。Apple製品を買っても、そもそもSSDの容量も増えてないし、CDを入れるところもない。だから、(音楽ファイルを)このパソコンの中に入れて保管しておくものじゃないんだな、という感じがする。音楽の聴き方が変わってるということだけど、それが良いか悪いかは置いておいて、その流れに乗っかっていくしかないよね。だから僕は、若いアーティストにとっても「ストリーミング・サービスに自分の楽曲をたくさん置いておくと、知らない間にたくさん聴かれてて、意外と儲けが入ってくるじゃん」っていう状況になったことの方がうれしいね。

渡辺志保:私も、普段使うのはもっぱらストリーミング・サービスがメインになってしまったんですけど、いい意味で、ユーザーが勝手にプレイリストを作ってくれて、知らないうちに楽曲とユーザーとの接点が出来ていくところもいいですよね。グローバルに聴かれる可能性も、だいぶ広がるし。

DJ YANATAKE:これからは、より一般的な人たちにどう広めていくかが課題だと思うけどね。俺は今、計4つのストリーミング・サービスを使ってるけど、それでも月に掛かるコストは4000円くらい。昔、アルバムを月に何枚も買うことを考えるとすごく安いと感じる。でも、その感覚が他の人にどう受け入れられるかだよね。だから、所有してないとダメだ、っていう感覚が今後どう変容していくのかな、とは思う。

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