ブランドがラッパーに投資、ヒップホップがもたらす音楽業界の新たなマネーフロー

ポスト・マローンのエージェントを務めるUnited Talent AgencyのCheryl Paglieraniは、企業とのスポンサーシップ締結は同ラッパーの急速なキャリア向上に大きく貢献していると話す。「ブランドとのパートナーシップは、ポスト・マローンのイメージアップに繋がっています。彼が普段から愛用しているモノやサービスをスポンサーにつけることは、ファンを対象にしたマーケティングの役割も果たしています」マローンはこれまでにバド・ライト、フェンダー、Lyft、ハズブロのNerf Gun等とパートナーシップを結んでいる。

「今は誰もがそういった機会を模索しています」Paglieraniはそう話す。「彼らが求めるのは有名で好イメージであるだけでなく、自身が普段から親しんでいるブランドとのパートナーシップです。スニーカーや化粧品など、普段から愛用しているモノやサービスとのコラボレーションを望んでいるんです」一方で、UTAでアーティストと企業のリレーションを専門に担当するToni Wallaceはこう語っている。「多くのブランドがマローンにアプローチするのは、彼がリアルでオリジナルな存在であり、ファンもまた同様の価値観を持っているためです」

現代のアーティストたち、特にストリーミングの恩恵にあずかるラッパーたちは、ビジネス面での成功を何よりも重視する傾向がある。SoundCloudのContent and Commnuty部門を統括するMegan Westは、注目を集める若手ラッパーをスタートアップになぞらえてみせる。「スタートアップにとって何よりも大切なのは、自分たちに見合ったパートナーやコラボレーターを見つけることです。若い企業には資金調達が不可欠なのです」

「ラップは長年にわたってポップカルチャーを進化させてきた。それでも人々が投資しなかったのは、それが一過性のものに過ぎないと考えられていたためだ」ー インタースコープEVP, Joie Manda

しかし、いくらラップというジャンルがビジネスライクであるとはいえ、ラッパーを起用したあらゆるキャンペーンが成功を収めるわけではない(HBOが仕掛けた『ゲーム・オブ・スローンズ』にインスパイアされたミックステープ、『Catch The Throne』への乏しい反響はその最たる例だ)。あらゆる広告がそうであるように、そこにはストーリーと誠実さがなくてはならない。起用されるアーティストが商品に興味を持っていなかったり、そのファンベースが企業のターゲットからかけ離れていると、キャンペーンは決して成立しない。また最近では、アーティストとのパートナーシップ締結はおろか、本人の了承を得ずに企業が自社のSpotifyプレイリストに楽曲を使用するケースが絶えず、ルールの整備が求められている。

現在のバブルは当面続くだろう。インタースコープのEVP、 Joie Mandaは本誌にこう語っている。「ラップは長年にわたってポップカルチャーを進化させてきました。それでも人々が投資しなかったのは、それが一過性のものに過ぎないと考えられていたためです。今ではラップの影響力を否定する人間はいません。企業にとって、アーバンミュージックは絶好の投資対象なのです」

タレントと企業を引き合わせるプロとして、20年以上業界に身を置いているAllen曰く、音楽業界におけるこういったマネーフローには多くの伸びしろが残されているという。比較対象としてまず名前が挙がるのはスポーツ界だ。「音楽業界における市場が15億ドルなのに対して、スポーツ界のそれは600億ドルです。アスリートたちと比べれば、ミュージシャンへの投資はまだまだ少ないということです」彼女はそう話す。「ヒップホップはそのギャップを埋める原動力となり得ます。ラッパーたちはそれだけ大きな可能性を秘めているということです」見過ごされがちだが、eスポーツは急速に拡大している市場のひとつだ。ドレイクやトラヴィス・スコットがTwitchにおけるライブストリーミングの新記録を樹立し、大規模なプロモーションを実現した例は、音楽とは無縁に思われる市場にも大きなビジネスチャンスが眠っていることを証明してみせた。またチャイルディッシュ・ガンビーノとマイクロソフトが組んだVR関連のキャンペーンの例に代表される、アーティストとIT業界のパートナーシップの可能性は、今年の同業界のカンファレンスにおける主要なトピックのひとつだった。

アルコールとスニーカーというステレオタイプから解放され、ラップという音楽はあらゆる業界から投資を引き出すマネーツリーとなった。「これが一時的なゴールドラッシュだとすれば、1年近く経った今頃は既に減速し始めているはずです」Allenはそう話す。「その兆しはありません。それどころか、投資の規模も頻度も増す一方です」

Translated by Masaaki Yoshida

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