トランプ政権下の分断社会にスパイク・リー監督が提言、新作『ブラック・クランズマン』に込めた思いを語る

カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞した新作『BlacKkKlansman(原題)』への思いを語ったスパイク・リー監督(Photo by Mamadi Doumbouya)

映画監督のスパイク・リーが、自身の30年に渡るキャリアと、カンヌ国際映画祭のグランプリを受賞した新作『ブラック・クランズマン』(2019年3月22日より日本公開)への思い、人種差別の醜い現実を表現する義務を感じていること、そしてプリンスが歌う黒人霊歌についてローリングストーン誌に語ってくれた。「私がこの世を去ったあとに自分の作品が長い間語り継がれる確信はある。それだけで十分だよ。だって自分の人生が人に影響を与えたってことだから。それもポジティブな方向にね」と、監督は言う。

ブルックリンに隣接するフォートグリーンにあるスパイク・リーの制作会社40 Acres and a Mule Filmworksの本社に訪れる人々は全員、ラジオ・ラヒームに出迎えられる。このラジオ・ラヒームは『ドゥ・ザ・ライト・シング』に登場する悲劇のヒーローをかたどった巨大な張り子の置き物で、トレードマークの大きなブームボックスを持って入り口の上にそびえ立っている。これを見ると、リーの監督作品に通じるテーマが強烈に浮かんでくるのだ。リー作品に共通するテーマとは、黒人としてアメリカで生きることの美しさ、不条理、恐怖だ。

傑作『ドゥ・ザ・ライト・シング』を公開してから約30年、リーは再び傑作を生み出した。それが『ブラック・クランズマン』(米国現地時間8月10日公開)で、ロン・ストールワースという実在のアフリカ系アメリカ人警察官が、70年代のコロラドでKKK(クー・クラックス・クラン)に潜入した実話を基に描いた作品である。5月のカンヌ国際映画祭でこの作品はパルム・ドールを受賞し、そのときの会見で、リーはトランプ大統領を「マザーファッカー」と公に非難した。これは、2017年にバージニア州シャーロッツビルでの殺人が発生する暴動を起こした白人至上主義者に対して、その責任を咎めることを拒否したトランプ大統領へのリーの意思表示だった。61歳になるリーと6月に彼のオフィスで会ったとき、放送禁止用語で怒りを表わす人には見えなかった。エリア・カザン監督のサインが2つも入った『波止場』のポスターを含む、自身の作品やさまざまな映画作品のアートや工芸品に囲まれたオフィスで、リーは自身のキャリアに思いを巡らせ、政治的にこれまでで最も分裂した状況の今だからこそ、自身の作品にメッセージを語らせる理由を説明してくれた。



―今回の作品を見終わったときに最初に感じたのが、暴力的な白人だけではなく、沈黙を守る白人も同じく問題だ、ということでした。

私たちは権力者たちに真実を教えようとしただけだ。わかるだろう? 時代物の作品でなければいけなかったし、同時に現在のホワイトハウスの主のせいで何が起きているかも描きたかった。(NFL選手と)アンセム、国境の壁の建設、「メキシコ人は強姦魔」発言などなど……すべてが本当にクレイジーとしか言いようがない。映画『危険な年』そのままの世界に私たちは今、生きているんだよ。そうだ、例のフットボールをこの目で見たよ。

―例の核のフットボールですか?(※アメリカ合衆国大統領が司令部を離れていても核攻撃の許可を出せる黒いブリーフケースのこと)

ああ、見た。妻のトーニャと二人でオバマ大統領に頼まれてチャリティ・イベントのホストを務めたんだ。そのとき、政府の車が自宅の前に停まっていた。気分転換するために外に出たら、その車の後部座席に父親がいたんだよ。目で確認しながら指さしたら、父は私に向かってウンウンと頷いてね(笑)。そこにはオバマ大統領もいた。その夜は悪夢にうなされたよ。

―どんな悪夢でしたか?

世界を終わらせることのできる人間がいるというものだ。そして、その人間が……実は番号を知らないと聞いたことがあるんだ。

―つまりトランプ大統領に核ミサイル発射コードを教えていない人がいると?

彼が知っている番号はフェイクだって聞いたよ。ほら、昔、女の子が男に渡す電話番号がフェイクだった時代があるだろう? 政府関係者が彼に教えた番号がフェイクなことを祈るよ(笑)。

―現在の大統領は常に文化戦争の泥沼に陥っていますよね?

本当に気が変になりそうな状態だ。演出が完全に間違っている演劇と同じ。一人の男がボールを持っていると思うと、他の男がボールを手にしている。そして、その男がゴールラインに向かっていきなり突進するんだ。だから、私たちは彼らよりも利口になって、3つのSを避けること。つまり、シェナニガン(ペテン、ごまかし)、サブタフュージ(言い逃れ、欺瞞)、スカルダガリー(不正行為)。これはマイク・タイソンから教わったことさ。

Translated by Miki Nakayama

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