フジロック現地レポ「ボブ・ディラン、極上のバンド演奏で存在感を見せつける」

Takanori Kuroda | 2018/07/30 17:29

| ボブ・ディランは29日(日)、フジロック3日目のグリーンステージに出演した(Photo by Shuya Nakano) |

晴れていたと思いきや、急に土砂降りになるなど不安定な天候が昼過ぎまで続いていたフジロック3日目。ようやく心地よい風が吹きはじめた夕方から、ボブ・ディラン&ヒズ・バンドの演奏が始まった。

定刻よりも少し早くメンバーがステージに登場すると、グリーンステージは大きな歓声に包まれた。上下黒の衣装をまとったボブ・ディランを筆頭に、トニー・ガーニエ(Ba)、ジョージ・リセリ(Dr)、チャーリー・セクストン(Gt)、スチュ・キンボール(Gt)、ドニー・ヘロン(Key)という、近年のディランをずっと支え続けてきた面々。トニーに至っては、1989年にセッションをして以来の付き合いだからもう30年近く連れ添っていることになる。

ステージ向かって左手にセッティングされたグランドピアノの前にディランが座り、まずは「Things Have Changed」からスタートした。ここ最近のディランは、ライヴでギターを持つことは滅多になく、大抵はピアノの前か、中央にセットされたマイクで歌っている。2日前に行われた韓国公演では、本当に久しぶりにギターを演奏したという情報が流れていたため(しかもオープニングから2曲も)、「ひょっとしたら苗場でもギターを弾くかも……?」と期待していたファンも多かったはずだが、残念ながらこの日は「その姿」を見ることはできなかった。ただ、グリーンステージにもセットされていたセンターマイクの前には、一度も立つことはなく全曲ピアノを演奏。さらに素晴らしいハーモニカ・ソロまで数曲で披露し、その度に大きな歓声が上がっていた。

まず耳に飛び込んできたのはヒズ・バンドの圧倒的な演奏能力だった。例えば、音の切れ目やダイナミクスの付け方、各楽器のフレーズの抜き差し。さすがマイク数本でレコーディングしてきた人たちは違う。ミックスダウンで調整するようなことを、全部リアルタイムの演奏でやっているのだ。太く柔らかいキックの余韻や、歯切れよく刻まれるエレキギターの歪み、粒立ちの良いアコギの箱鳴りなど、音の“手触り”まで伝わってくるようで、「もう、このままずっと聴いていられるな……」と思いながら、夕暮れのどきの風に吹かれていた。

もちろん、ディランの存在感は言うまでもない。筆者が観ていたのはステージからかなり遠い位置で、大型モニターには固定カメラで撮影されたディランのみが映し出されている(全ての撮影が禁止されていたため、カメラを動かすこともできなかったのだろう)。時おり強風に煽られ、髪をなびかせながらピアノを弾く表情は鬼気迫るものがあったし、MCを一切挟まずただひたすら歌い続けるストイックさには、背筋が伸びる思いもあった。その一方で、ジョージ・リセリの素晴らしいドラム・ソロに思わず笑顔を覗かせるなど、チャーミングな一面も印象に残っている。

それにしても、もはやアーティキュレーションだけで成立しているようなディランの歌声を、ここまで明瞭に聴かせるバンドのアンサンブルには、やはり感嘆せずにはいられない。寄せては返す波のようなクレッシェンド・ディクレッシェンド、まるでバンドという「生き物」が呼吸をしているような、緩急自在のテンポチェンジ。派手なギミックなど一切ないが、ディランの歌とハーモニカを最大限に引き出すための、メンバー同士の「阿吽の呼吸」をそこかしこで感じることができた。

セットリストは、「Highway 61 Revisited(追憶のハイウェイ)」や、「Blowin’ In The Wind(風に吹かれて)」など60年代の有名曲をはじめ、70年代のベストセラー・アルバム『血の轍』から「Simple Twist Of Fate」、グラミー賞を獲得した90年代の代表作『タイム・アウト・オブ・ マインド』から「Tryin’ To Get To Heaven」「Make You Feel My Love」「Love Sick」の3曲、そしてオリジナル・アルバムとしては最新作である2012年の『テンペスト』から「Duquesne Whistle」「Early Roman Kings」と、新旧バランスよく散りばめつつも、「今のディラン」を感じさせるもの。大幅にアレンジされて、原曲からはかけ離れた演奏もあったが、ディランをあまりよく知らない人たちも「入門編」として楽しめるメニューだったのではないだろうか。

米国ポピュラー・ミュージックの歴史を体現してきた名うてのミュージシャンによる、極上の演奏を堪能した贅沢なひと時だった。



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