フジロック現地レポ「アンダーソン・パーク、歌とビートを操るエンターテイナー」

7月29日(日)、フジロック3日目のグリーンステージに出演したアンダーソン・パーク(Photo by Shuya Nakano)

断続的に降り続ける雨は、まだ止みそうもなかった。この男がグリーンステージに現れるまでは。その男とはもちろんアンダーソン・パークのことだ。昨夜、圧巻のヘッドライナー・セットを見せたケンドリック・ラマーと並んで、現・アメリカ西海岸のヒップホップ/R&Bシーンを牽引する才人がフジロック初登場である。

まずステージ上に先に現れたのは、彼のツアー・バンド、フリー・ナショナルズの4人。アメリカン・サイズの巨体に長いドレッド・ヘアという風貌のキーボード奏者がグルーヴィな声で会場を煽ると、早くもオーディエンスから大きな反応が巻き起こる。その大歓声を受けて、颯爽と歩み出てきたアンダーソン・パークは、赤いニット帽にタイダイ染めのTシャツとショートパンツという陽気でカラフルなファッション。サンシャイン&サイケデリア、つまりはカリフォルニア・スタイルだ。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


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ビッグ・スマイルを讃えて「コンニチワ!」と観衆に挨拶した後、ノレッジとのユニット=ノー・ウォーリーズのアルバム・タイトルにもなった「イエス・ラウド!」という言葉でコール&レスポンスに。「ラウド(lawd)」とは南部訛りの英語で「主(LORD)」を意味し、「イエス・ラウド」はアンダーソン・パークがよく使うお馴染みのフレーズだ。会場の空気が一気に温まったところで、始まった1曲目は「カム・ダウン」。フリー・ナショナルズが叩き出す極太ファンキー・ビートに乗って、アンダーソン・パークは腰をフリフリ踊り、歌い、ステージ狭しと駆け回る。

続いて聴こえてきたのは、誰もが耳にしたことがあるに違いないヒップホップ・クラシックのリフ。ドクター・ドレーによる大名曲「ザ・ネクスト・エピソード」の、あのイントロだ。ドクター・ドレーと言えば、US西海岸の大先輩であり、アンダーソン・パークを自作品にフックアップして躍進の契機を作ってくれた大恩人。レジェンドへのリスペクトを感じさせるサンプリングからシームレスに「ザ・ウォーターズ」へと繋げていった。


Photo by Shuya Nakano


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後で振り返れば、最初の「イエス・ラウド!」のコール&レスポンスが日照り乞いとなって天に通じたのかもしれない。ここで、止みそうもなかった雨が止み、雲間から太陽が顔を覗かせ始めた。やはりアンダーソン・パークに一番似合うのは、カラッと晴れた青空と照りつける太陽だ。

最新シングル「バブリン」が始まると、会場からは一際大きな歓声が飛ぶ。性急なイントロからトラップ・ビートへと突入した瞬間、弾けるように踊る大観衆。その姿を見て満足そうな表情で投げキッスをすると、アンダーソン・パークはドラム・セットに座り、おもむろに叩き始めた。凄まじくパワフルなドラミングだ。そう、彼はドラム・パフォーマンスを音楽の原体験に持つ、凄腕のドラマーでもあるのだ。

「ザ・シーズン/キャリー・ミー」からは、アンダーソン・パークがドラムを叩きながら歌うスタイルが続いた。激しくドラムを叩きながらソウルフルに歌い続けるだけでも人間離れしているのに、彼の場合は曲間にほぼ休みを挟まず、ビートを変化させることで代わるがわる次の曲へと繋げていく。常人離れした音楽家であり、エンターテイナーだ。

20分近くドラム&ヴォーカル・スタイルで演奏を続けた後、Apple社のHomePodのCMで使用されたことで話題となったシングル「ティル・イッツ・オーヴァー」で、アンダーソン・パークは一旦ドラムを離れて前へ。滑らかなダンス・ビートに乗って踊り、さらにオーディエンスを盛り上げていく。

最終曲となった「ライト・ウェイト」では、アンダーソン・パークの「Get Low !」の掛け声に合わせてオーディエンスがしゃがみ、その後「ジャンプ!」の一言で一斉に飛び跳ねる。マイクを手にして歌い踊りながら観客を煽りに煽るアンダーソン・パークのパフォーマンスに、会場のテンションは最高潮に達した。

最後に「I Love You, Japan !」という言葉を残してステージを後にしたアンダーソン・パーク。彼が去ったグリーンステージの周りには、爽やかな青空が広がっていた。




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