ケンドリック・ラマー、5年前の「約束」を果たしたフジロック帰還

「ビッグ・ショット」「グースバンプス」と、トラヴィス・スコットとの共作曲、そしてスクールボーイ・Qの「カラード・グリーンズ」と客演関連の楽曲が続き、会場の空気は次第にメロウなムードへと移っていく。『グッド・キッド、マッド・シティー』から立て続けに披露された「スイミング・プール(ドランク)」と「バックシート・フリースタイル」では、ケンドリックとオーディエンスの間で何度もコール&レスポンスが繰り返された。

続く「ロイヤルティ」のブレイクでは、一度ステージを後にしたケンドリックの代わりに白い衣装を身にまとったダンサーが登場。延々と続く田畑を走り続ける少年の映像の下でしなやかに躍動する彼女の姿は、彼らアフリカン・アメリカンが追い求め続けた「自由」を体現するかのようだ。その後、再び登場したケンドリックはカンフー着からブルーカラー労働者を思わせる作業着の姿に。その恰好で最初に披露されたのは、地元コンプトンの持たざる層の「マネー」をテーマにした「マネー・ツリー」だった。

ここで冒頭の「カンフー・ケニー」の続編映像が挿入され、そこではカンフー・ケニーが蛇拳を操る東洋風の女性と対決。途中で格闘ゲームを模した演出が加わるなど、B級エンターテイメントへの敬愛が端々に見え隠れする。スクリーンがアメリカ国旗へと切り替わり、流れてきたのは「XXX」のイントロ、「America, God bless you if it’s good to you」という歌声。「ニュー・カンフー・ケニー!」の掛け声とともに、ライブは怒涛の後半へ突入していく。

『ダム』収録曲の中でも一際メロウな「ラヴ」、その後に続いた「ビッチ・ドント・キル・マイ・ヴァイヴ」では、オーディエンスも大合唱でケンドリック・ラマーのマイクに応える。そして遂に、現代を生きるアフリカン・アメリカンを勇気づけたあの曲のイントロが響き渡り、「オールライト」が演奏された。「We Gon’ Be Alright」=「俺たちは大丈夫さ」という言葉が何度となく繰り返される。

その感動的なやり取りを経て、「カンフー・ケニー」最終章へ。幻惑的な2人の女性の映像から、カンフー・ケニーは光を見つけ、「Kung Fu Kenny Found the Motherfuckin’ Glow」という一文でカンフー・ケニーの物語が終焉を迎えた。その大団円の直後、「Nobody Pray For Me!」の叫び声が聴こえて「ハンブル」がスタート。コーラスの「Sit Down, Be Humble」というラインのみならず、オーディエンスはケンドリックからマイクを託されたヴァースに見事なレスポンスを決めていく。最後のコーラスで、ケンドリックの「1.2.3」の掛け声とともに弾けるようなジャンプを決めた大観衆の光景は圧巻だった。

これで終演、と思いきや、しばしの沈黙の後、アンコールで再びケンドリック・ラマーとバンドが登場。演奏されたのは、ケンドリックが音楽のキュレーターを務めた映画『ブラックパンサー』のリード・シングル「オール・ザ・スターズ」だ。シザが歌う、天高く舞い上がるようなコーラスのサンプリングに合わせて、オーディエンスも美しい歌声を聴かせる。ケンドリックが「ライトを点けてくれ」と客席に投げかけると、会場中がスマホの光でいっぱいに。グリーンステージ全体が星空になったかのように、美しく光り輝く。『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』の冒頭で繰り返される「every nigga is a star」という言葉のように、今ここにいる一人ひとりがスターなのだと、その光景は告げているかのようだった。



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