フジロック現地レポ「マック・デマルコ、美しさとユルさと誠実さ」

7月27日(金)、フジロック1日目のレッドマーキーに出演したマック・デマルコ(Photo by Shuya Nakano)

レッドマーキーに登場したマック・デマルコ。こんなにツッコミどころ満載のライブって、そうそうないんじゃなかろうか。

定刻時間に客電が落ちると、登場用のBGMとして高らかに鳴り響くのはなんと、『スター・ウォーズ』のメインテーマ曲! どよめきと失笑でフロアがざわつくなか、サポート・メンバーを引き連れマック・デマルコが踊りながら現れた。ドラム、ベース、シンセ、ギター(兼シンセ)を加えた5人編成だが、それ以外にも「友人です」と紹介された、10名ほどのギャラリーが何故かステージの後ろを陣取っている(その中には、水原希子の姿も!)。筆者はそのとき、インド古典音楽のコンサートを思い出したのだが(演奏者の弟子や家族が、ステージ袖に座って見守るという図がよくある)、ポップスやロックのコンサートでこんなことしている人を他に知らない。

メンバー紹介を軽くした後、まずは最新アルバム『This Old Dog』から「On The Level」でスタートした。ヴェイパーウェイヴ感ただようシンセのサウンドと、浮遊感たっぷりのメロディ、洗練された美しいコード進行が特徴の世紀末シティポップ。心地よいヴァイブレーションに身を委ねていると、曲の端々で発作でも起こしたのかと思うような奇声を発するデマルコ。しかもバックスクリーンには、『MOTHER2』のプレイ画面が何故か映し出されている(奇しくも、29年前のちょうどこの日が『MOTHER』発売日とか)。さらによく見ると、デマルコをはじめメンバー全員の楽器ストラップに「ハードオフ」のロゴが。


Photo by Shuya Nakano

この、“美しさとユルさのギャップ”は一体どこから来るのだろう? としばし唖然と眺めていたのだが、実は全てが地続きなのかもしれないと思い直した。細野晴臣『トロピカル・ダンディー』に通じるエキゾティシズム(異国情緒)と、眩いばかりのサイケデリア。どこか漠然とした不安が漂う、ディストピアと隣り合わせのサウンドスケープは、任天堂のゲームで育ち、ハードオフで楽器や機材、古い映画のDVDを買っていたミレニアル世代だからこそ、生み出し得たのかも知れない。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

音数の少ないシンプルなフレーズを組み合わせ、オーガニックなアンサンブルを奏でるサポート・メンバーたち。その揺るぎない演奏に助けられながら、以降もデマルコはやりたい放題のパフォーマンスでオーディエンスを沸かす。例えば、Tシャツに短パンというラフな姿で、ステージの高台に登って尻を振ったかと思えば、突然逆立ちをし始める。ステージ袖の友人を担ぎ出し、「チカラー!!」と大声で叫ばせる(「Power!!!!」という意味だったのだろう)。曲が終わり、タバコをくわえるがライターを持っていないことに気づき、客に投げてもらう(片手でキャッチし大歓声が上がった)。今年1月に行われた初来日公演のときもこんな調子で、しかもそれを長時間やり続けていたため「あまりにもユルい」「内輪ノリ過ぎる」との批判が多く上がっていたようだが、フジロックの(この時間帯の)お祭り気分にはちょうど上手くハマったようで(1時間と尺が決まっていたのも良かったのだろう)、ビール片手にツッコミを入れながら観るには最適のステージだった。

ヴォーカルマイクを振り回したり、ケンシロウ(『北斗の拳』)の声マネで「お前はもう、死んでいる」などと呟いたり(爆笑だった)、終始フリースタイルのデマルコだったが、例えばソフトサイケの名曲「Chamber of Reflection」では、サビの部分をシンガロングさせたり、「みんなもよかったら歌ってね」と言ったあと坂本九の「上を向いて歩こう」をカバーしたり、デマルコ流のファン・サービスもしっかりあって、オーディエンスを置いてきぼりにしない配慮もしている(ようだった)。最後はなんと、コナン・モカシンが飛び入りでギターを弾くサプライズも(実はコナン、フジの2日目に出演するMGMTのニューアルバム『リトル・ダーク・エイジ』にも参加している人物なのだが、ひょっとしたらMGMTのステージにも……?)。


Photo by Shuya Nakano

ユルユルながらも、締めるところはしっかり(?)締めた、デマルコなりの誠実さを感じさせるライブだった。



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