フジロック現地レポ「快楽性を研ぎ澄ましたチューン・ヤーズの現在形」

Takanori Kuroda | 2018/07/28 12:30

| 7月27日(金)フジロック1日目のレッドマーキーに出演したチューン・ヤーズ(Photo by Shuya Nakano) |

ザ・ミュージックやモグワイの初演、最近だと岡村靖幸の降臨などレッドマーキーでは様々な「伝説」が生まれているが、この日のチューン・ヤーズによるパフォーマンスも、そんな「レッドマーキー伝説」として語り継がれること必至だろう。

台風12号の進路が心配される中、苗場にしては珍しく一滴も雨が降らずにカラッと晴れ渡った初日。夕暮れ時の、心地よい風が吹き始めた頃にメンバーが登場。元々はニュージャージー州出身のメリル・ガーバスによるソロ・プロジェクトだったチューン・ヤーズは、今年リリースされた通算4作目のアルバム『I Can Feel You Creep Into My Private Life』から、長年彼女を支えてきたパートナーのネイト・ブレナーが正式メンバーとして加入しているが、今回はメリルとネイト、それからサポート・ドラマーを含めた3人編成である。

バックスクリーンに、最新アルバムのアートワークが掲げられただけの簡素なセット。打ち込みと生のドラムをミックスした骨太のビートがおもむろに繰り出され、それと応戦するかのようにメリルがパッドをスティックで叩き、トライバルなリズムを構築していく。シルバー・ヘアをモヒカンのように逆立てた彼女は、前回の来日時よりもスリムになって精悍さが増したようだ。一方ネイトはエレキベースやシンセベースを操りながら、うねるようなグルーヴを加えてオーディエンスの腰を揺らす。さらにメリルが足元のルーパーを駆使して自らの声を重ね、まるで聖歌隊のような美しいハーモニーと、野獣のような雄叫びを1曲の中に次々とぶち込み始めると、そのプログレッシヴかつプリミティヴ、ホーリーかつデモーニッシュなアンサンブルに、最初は遠巻きに様子見していた人たちも息を飲み、次第にその世界観へと引き込まれていくのが手に取るように分かった。


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano


Photo by Shuya Nakano

学生時代にケニアへ留学し、アフリカン・ミュージックを学びながらR&Bやヒップホップに傾倒していき、今の音楽性にたどり着いたメリル。セカンド・アルバム『W H O K I L L』までは、アカデミックな要素とヴァイオレントな要素がギリギリのバランスでせめぎ合っていて、その「危うさ」が魅力の一つでもあったのだが、サード・アルバム『Nikki Nack』以降はエレクトロ〜ダンスミュージックの持つ“快楽性”を積極的に取り込み、最新アルバム『I Can Feel You Creep Into My Private Life』はその一つの到達点といえるものだった。今回のステージは、その最新作を中心にセットが組まれているため、前回の来日公演(2015年)よりもエレクトロ〜ダンス色が濃厚で、その快楽的なパフォーマンスはフジロッカーズが“今、この瞬間”に求めているものと完璧にシンクロしたのだろう。彼女が伸びやかでソウルフルな歌声を披露するたび、地響きのようなシャウトを放つたび、ルーパーのスウィッチを足で小刻みに切り替えヴォーカルチョップを叩き出すたび、フロアからは割れんばかりの声援が巻き起こった。



メリル自身も、ステージ上で確かな手応えを感じていたはず。最初は緊張気味だった表情も、演奏が進むにつれてどんどんほぐれていくのが分かる。中盤、ヒップホップとレゲエ〜トライバル・ミュージックを融合させた代表曲「Gangsta」(『W H O K I L L』収録)の、イントロのサイレンが流れ出すと会場のヴォルテージは最高潮へ。さらに後半披露した最新シングル「Heart Attack」では、イントロのパーカッシヴなリズムに合わせて全員がハンドクラップをするなど一体感に包まれた。

「今日、この場で演奏できてとてもうれしかったです!」と、満面の笑みで挨拶してステージを去る彼女。ライブとは、演奏者だけでなくオーディエンスと一緒に作られるものだということを、あらためて思い知らされた素晴らしいひとときだった。


Photo by Shuya Nakano

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