再生回数10億を記録、歌姫カミラ・カベロが描いたアメリカン・ドリーム

しかし当時、カベロは葛藤を抱えていた。彼女はグループの一員として脚光を浴びるよりも、自身のリアルな一面をさらけ出したいと感じていた。その頃から、彼女はツアー先のホテルのバスルームで素直な気持ちを歌にし(「お風呂場って音がよく響くから」)、トイレの便座の上に置いたラップトップに録音するようになった。それから4年後、彼女が満を持してリリースしたソロデビューアルバム『カミラ』は、レコード会社を意識することなく曲を書き続けた日々の結晶だった。同作は1カ月も経たないうちに10億回再生を記録し、100カ国以上のiTunesチャートを制覇したほか、自身のラテンのルーツについて歌った「ハバナ」はスマッシュヒットを記録した。同曲の抜群のキャッチーさには、ラテン系の人々を目の敵にするトランプ大統領も抗えなかったに違いない(彼女は2016年に「トランプに投票しちゃダメ!」とツイートしている)。10代に満たない少女たちからその母親、さらにはその祖母までをファン層に取り込んでみせた彼女は(余談だが、筆者の母親も一聴して彼女のファンになった1人だ)、1月にはアルバムとシングルの両チャートを制覇し、ソロのアーティストとしては2003年のビヨンセ以来初となる快挙を達成した。彼女がジェネレーションZの代弁者となる日は、もはや遠くないだろう。それでも、現在の彼女はまだ少女と大人の過度期にある。人生の目的を見出そうともがく同年代の女性たちと同じように、21歳となった彼女もこれまでに多くの友人を作り、そして別れを経験してきた。


2016年、フィフス・ハーモニー時代の写真(カベロは一番右)。「私が脱退したとき、グループはまさに人気絶頂だった。そんな時期にやめちゃうなんて勿体ないって、みんなに言われたわ」(GETTY IMAGES FOR EXTRA)

突出した才能とカリスマ性、フィフス・ハーモニー時代の確執

去る土曜、ロスガトスのトール・ハウス・ホテルのベッドの上で目覚めた時、彼女の髪はボサボサで、瞼にはマスカラが滲んでいた。嫌な夢を見たらしく息づかいは荒かったが、その内容は思い出せなかった。「よかった、現実じゃなくて」。安堵した様子の彼女は、母親に現在の時刻について訊いた。「9時半よ」。一人で眠ることを嫌がる娘とベッドをシェアしていたシヌヘ・エストラバオにそう言われ、カベロは自分が10時間以上寝ていたことを知った。その前日、彼女は11歳の妹が出演する『Seussical』の稽古を鑑賞するためにマイアミに滞在しており(「うちの家族の連帯意識はちょっと極端なの」)、カリフォルニア行きの飛行機に乗ったのは午前4時のことだった。それでも彼女は、サンタクララのリーバイス・スタジアムに時間通りに到着し、ステージでは髪をダイナミックに振り乱しながら、その美しいファルセットで沈みゆく夕日を背にしたオーディエンスを魅了していた。スウィフトのステージでは、同じく前座を務めたチャーリーXCXと共に、ガールパワー賛歌「シェイク・イット・オフ」を3人で歌った。カベロは初の失恋を経験して落ち込んでいたときに、共通の友人であるヘイリー・スタインフェルドからスウィフトを紹介されたという(スウィフトは似たエピソードを多数持っている)。「彼女は『ウチにおいで、話を聞くから』ってメールをくれたの。『失恋に効くプレイリスト』と一緒にね」。カベロはそう話す。「確かハイムのメンバーもいたわ。いわゆるガールズナイトってやつね」「シェイク・イット・オフ」のパフォーマンスで全てを出し切った彼女は昨夜、ホテルで湯船に浸かったまま眠り込んでしまった。

今夜はサンタクララでの2公演目が行われるが、前日にサウンドチェックを済ませていた彼女は、夕方の会場入りまでは自由に過ごすことができた。スーツケース、片方が行方不明のソックス、大量の本など、散らかった大学寮の一室を思わせる小さなスイートに滞在していた彼女は、ベッドで本を読んだり(ミカ・ワルタリ著『エジプト人』1945年作品)、買い物に出かけたりしていた。ベロアのパンツ、ナイキのスニーカー、ぶかぶかのテディベアのパーカーという姿でビンテージショップを物色するカベロ(名前の正しい発音はCam-EEL-a Ca-BAY-o)は、世界的ポップスターというよりも、大学のカフェテリアにいそうな初々しい女学生という印象だ。「私はチビでブルネットだから」彼女はそう言って肩をすくめた。「ヒールとエクステンションがなかったら、大学生に見えるかもね」

しかしフィフス・ハーモニーにおいては、彼女の存在感は際立っており、誰の目にも明らかなカリスマ性を放っていた。メンバー全員でのトゥワーク時こそ後方に甘んじていたものの、ディープでスモーキーかと思いきや、きらびやかな高音からウィスパーボイスまで操る彼女は、ヴォーカリストとしては完全に別格だった。歌詞注釈サイトのGeniusによると、カベロはフィフス・ハーモニーのラインの45パーセントを歌っている。Instagramのフォロワー数においても、彼女個人のアカウントはグループのそれを上回っていた。

そういった状況下では、メンバー間に軋轢が生まれるのは避けられなかったのかもしれない。デスティニーズ・チャイルド以降最も成功したガールグループとなったフィフス・ハーモニーは、2016年夏の度重なるコンサートの中止と、その理由について様々な噂が広まったことを受けて、12月19日にグループのアカウントから以下のようにツイートした。「結成から4年半、カミラは代理人を通じて、正式にフィフス・ハーモニーから脱退する意向を表明しました」。そのツイートについて、彼女は事前に知らされていなかった。

しかし実際には、彼女は既に脱退の意思を固めており、その後のプランを立て始めていた。その状態にストレスを感じ、非合理的な考えが頭の中をループし続ける強迫性障害に苛まされた時期もあった。11月の大統領選が行われた日には、彼女はプロデューサーのベニー・ブランコやフランク・デュークスと共にスタジオ入りしていた(「スタジオ内のテレビで結果を知って、みんな言葉を失ってた。向こう1週間はまともな曲がひとつも生まれなかった」)。ロジャー・ゴールドが彼女のマネージャーに就任すると、カベロからGarageBandで作った膨大な数の曲が送られてきたという。「興奮して眠れなかったぐらいさ」ゴールドはそう話した。「作り物のポップグループのメンバーがこれほどの才能を持っているなんて、正直思いもしなかった。それぐらい衝撃を受けたんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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