ホイットニー・ヒューストン、知られざる苦悩と歩んだ軌跡ードキュメンタリー映画制作秘話

ANDY GREENE | 2018/07/11 13:00

| 全米で新作ドキュメンタリー映画『Whitney(原題)』が公開された (Photo by David Corio/Redferns) |

全米で物議を醸しているホイットニー・ヒューストンの新作ドキュメンタリー映画『Whitney(原題)』。映画監督ケビン・マクドナルドはいかにして、歌姫の転落を赤裸々に描き出したのか?そしてなぜ、彼女を虐待した加害者の実名を公開したのか?映画の制作秘話からホイットニーが歩んだ人生を探る。

長らくホイットニー・ヒューストンのもとで映画出演のエージェントを務めてきたニコール・デイビッドには、彼女の半生を描いたドキュメンタリー映画『Whitney』(全米で7月6日公開)をプロデュースするにあたり、目的が2つあった。「声は最高で見た目もキレイだけど、文句ばかり言ってる女の子、という世間のイメージを変えたかったんです。それに私自身、こんなに才能に恵まれた人間が、なぜこの世を去らなきゃいけなかったのか、きちんと理解したかった。私は何もわかってなかったんです――あの場にいたのに」

プロジェクトのかじ取り役として彼女が起用したのは、映画監督のケビン・マクドナルド。ボブ・マーリーのドキュメンタリー映画『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』や、実話を元にしたオスカー受賞作『ラストキング・オブ・スコットランド』を手掛けた人物だ。当初、監督はあまり興味を示さなかった。「(ホイットニーに関して)知っていることといえば、タブロイド紙の記事ぐらい」とマクドナルド監督。「彼女はあまりにも荒んだ状態だったから、正直うんざりしていた。僕も80年代に彼女の歌を聞いて育った世代だけど、彼女にすんなり同情する気分にはなれなかった」

だが、デイビッドとホイットニーの義理の妹パット・ヒューストン(ホイットニーの遺産の管理人も務めている)と面会してから、監督は考え直すことにした。2人は、ホイットニーの苦難の人生をありのままに伝える映画を作りたいと、監督を説得した。「大家族やレコード会社を相手に超大作映画を作る場合、いろいろな人たちが口出しして面倒なことになる」と監督は語った。「だから2人には、自分に最終決定権を与えてくれるならやる、と言ったんだ」

巨額の遺産を管理する団体からドキュメンタリー映画製作を請け負う監督が、このような権限を与えられることはまれなことだ。だが、パット・ヒューストンはすんなり応じた。「彼に決定権を与えたわ。誠実な人だと思ったから」と彼女は振り返る。「もちろん、プライベートに首を突っ込まれたり、仕上がりが気に入らないこともあるでしょうね。だけど大局を見なくちゃ。私たちは正しいことをしたかったの」

ひとたび契約が成立すると、マクドナルド監督とスタッフの前には気の遠くなるような作業が待っていた。ホイットニー・ヒューストンの生涯50年におよぶ写真、映像、音声素材を選別し、可能な限り大勢の人々と直撃インタビューを行うのだ。遺産管理会社は何千時間というコンサート映像、テレビ出演、バックステージの映像を保管していたが、監督は即座に、これらの大半は使えないと判断した。「ほとんどが同じことの繰り返しか、すでに語られていることばかり。ホイットニーはあまりインタビューを受けていなかったし、実際受けたとしても、実のあることは何も語っていない。カメラの前では居心地がよくなかったようで、プロモーションの為に応じていたんだ」と監督は語る。

だが制作スタッフは、1992年の特別TV番組「Whitney Houston: This Is My Life(原題)」の貴重な映像を発見。他にも、ヘアスタイリストや振付師、レコード会社の重役など、彼女の長いキャリアを支えた人々によるリアルな秘蔵映像も見つかった。その中には、1990年代初期に彼女がポーラ・アブドゥルの最新ヒット曲について母親に不平をもらすシーンや(「彼女ったら、キーを外しまくってるのよ」)、晩年、のちに命を落とす原因となる薬物乱用と葛藤するシーンなども含まれていた。

ホイットニーの家族との独占インタビューでは、彼女の不遇な子供時代や、その他主要な出来事に焦点があてられた。彼女の母親であり、自らもシンガーだったシシー・ヒューストンでさえも、自ら進んでカメラの前に立ち、娘について話をした。もっとも、このインタビューの大半は本編からカットされ、唯一、まだ子供だったホイットニーが家族の通う教会を訪れたくだりのみが採用された。「母親の記憶はあいまいだった」と監督は振り返る。「おそらく、彼女がこれまで体験してきたトラウマの心理的反動のせいだろう。僕らは彼女に無理強いはしたくなった。彼女は十分苦しんできたのだから」

Translated by Akiko Kato

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