生命を脅かす「鎮痛剤」ープリンスやトム・ペティの死亡原因となった合成ドラッグ「フェンタニル」とは?

DAVID BROWNE | 2018/07/08 17:00

| プリンスの妹やトム・ペティの家族らがオピオイド中毒に関して声を上げた。(Jimmy Turrell for Rolling Stone) |


今やフェンタニルは、最も危険な新種のドラッグとして、音楽業界だけでなく世の中に広まっている。最新の研究によれば、2016年の米国におけるオピオイドの致命的な過剰摂取は約6万5000件だった。その内3分の1がフェンタニル関連で、前年よりも倍増している。ドラッグの過剰摂取による死因ではヘロインを上回り、2016年7月〜2017年9月の間でフェンタニルの過剰摂取による死亡数が30%上昇したという新たなデータもある。

フェンタニルは1959年、手術後のがん患者の激しい痛みを抑制するために開発された。最近では大きな手術後の数日間、ロリポップや皮膚から摂取する遅効性のパッチの形で処方されることが多い。錠剤型のフェンタニルは違法だが、ブラック・マーケットではこの10年で普及している。2007年、オキシコンチンの常習性のリスクを正しく伝えていないとして、米国政府が製造業者を訴えた。同訴訟をきっかけに医師たちがオキシコンチンの処方を控えたことが、フェンタニルの違法な普及につながった。オキシコドン系オピオイドの使用者たちは代わりのドラッグを探す必要に迫られ、ヘロインに走った。麻薬ディーラーたちはヘロインとフェンタニルを合成し、より即効性があり陶酔感と常習性の高いドラッグを作り始めた。フェンタニルの過剰摂取は、短時間で生命にかかわる可能性がある。「ほんのわずかな量で効果がある」と前出のヴォルコウ博士は言う。「少しでも量を誤れば死に至る可能性がある。安全な配合を行うには、最新技術を備えたラボが必要とされる」

合成フェンタニルの高い効き目は、使用者にとって新たな脅威となり得る。以前は、「過剰摂取しても、バスタブへ浸けたりERへ運ぶまで生かしておくことができた」と、さまざまなアーティストのツアー・マネジャーを務めたジーン・ボウエンは言う。「今では、20分もあれば死に至る可能性がある」という。彼はドラッグ依存症など個人的な問題を克服した経験を持つエンターテインメント業界のプロたちと協力し、NPOのロード・リカバリーを設立した。

長年に渡りオピオイドは、音楽業界に蔓延してきた。1977年、死亡したエルヴィス・プレスリーの体内から、コデインやペルコダン等の薬物が検出された。しかし、業界内でのフェンタニルの流行はもっと根が深いと思われる。昔と比べてアーティストのツアーが増えている。「ツアーのストレスは、とても克服しづらい」と、ミュージケアズでシニア・ディレクターを務めるハロルド・オーウェンズは言う。ミュージケアズは、ザ・レコーディング・アカデミーによる慈善活動を支援する基金だ。「しかしツアーはお金になるため、皆が長いツアーを続ける。ところが肉体的には酷い状況だ。ろくに食事をとらず、身体のケアもしない」

他の職業では引退しているか、もしくはそれに近い年齢でハードなツアーを続けるアーティストの多くは、長いツアー生活による悪影響と闘っている。「年老いた我々は皆、手根管症候群など長年のプレイから来る障害を抱えている」と、自らも依存症を克服したボニー・レイットは言う。「鎮痛剤を使わずにいることは難しい」という彼女は最近、健康上の問題でジェームズ・テイラーとのツアーのキャンセルを余儀なくされた。必要に迫られてツアーを続けるデヴィッド・クロスビー(76)は、「ツアーを続けなければ、家を持ち続けることはできないだろう。貯金もほとんどないし」と言う。彼は背中の痛みが再発した場合に備えて鎮痛剤を持ち歩いているものの、使用は避けているという。「鎮痛剤はなるべく打たないようにしているから、3年も同じ薬の瓶を持ち歩いている」

プリンスは、2010年に腰の手術を受けて以降、パーコセットに頼るようになっていた。「ピアノやスピーカーの上から飛び降りたりするのは、身体に良いわけがない」とキーボーディストのモリス・ヘイズは言う。彼は1992〜2012年まで、プリンスの音楽ディレクターを務めた。「でも彼はお構いなしだった。興奮すると、身体に悪いことなど気にせず、彼は動き続けた」
プリンスの友人であるシーラ・Eも、「彼は常に痛みを抱えていたわ。でも彼はパフォーマーだから… 長年に渡り高い場所からジャンプし続けることを考えてみてよ」と付け加えた。
2016年、ミネソタにあるペイズリー・パークのエレベーター内で死亡しているのを発見されたプリンスは、検死の結果、肝臓と胃から異常な量のフェンタニルが検出された。彼自身の名義ではフェンタニルを処方されていなかったが、バイコジンを摂取していたと考えられていた。捜査員が自宅を捜索したところ、瓶に入った49錠の違法ドラッグが発見された。テストの結果、フェンタニルが含まれていた。

Translated by Smokva Tokyo

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