ポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』、プロデューサーが語る制作秘話

ANDY GREENE | 2018/07/08 15:30

| © 2016 MPL Communications Ltd / Photographer:MJ Kim |


ー1曲限りのセッションがアルバムのプロデュースへと繋がったのには、どういった経緯があったのでしょうか?

そのセッションから約1年後に彼から連絡があって、一緒にやってみないかって提案されたんだ。最初からアルバム全体を手がけることになってたわけではなくて、自然とそういう形になっていったんだ。彼は僕との仕事に興味を持ってくれていて、まずは何曲か一緒にやってみようということになった。ポールと彼のバンドと一緒にスタジオに入って、僕らは彼が持ち込んだ幾つかのアイディアを発展させていった。スタジオにはいいムードが流れていたし、僕らの相性は良好だった。その後も彼のツアーやあれこれの合間を縫う形で、僕らは断続的に作業を続けた。どこかのスタジオで2週間、その後また別のスタジオで2週間といった具合にね。

ーセッション開始当初、曲はどういう状態だったのでしょう?彼はデモを作っていましたか?

曲によるね。ピアノの弾き語りを携帯で録っただけのものもあれば、イギリスのスタジオで彼が複数の楽器を独りで演奏したスケッチ的なものもあった。中にはある程度アレンジされたデモっぽいやつもあったけど、大半はアイディアの段階にすぎなかった。バンドとのリハーサル中に曲を形にしていくこともあったよ。

彼が持ってきたラフなアイディアに、僕が具体的なアレンジ案を出すっていうケースもあった。「この2つのセクションを繋げてコーラスとヴァースにしよう」とか、「このセクションは半分でいいかもしれない」とかいった具合にね。同じ曲で複数のヴァージョンが未完成のままになっているケースもあれば、スタジオで大部分を仕上げた曲もある。リハーサルの場でバンドと一緒にジャムりながら、未完成だったバージョンをまったく別の曲に生まれ変わらせたケースもあったよ。アイディア段階の曲を解体して、スタジオで再構築するっていうプロセスは多かったね。



ーそのバンドというのは彼のツアーバンドですよね?

そうだよ。今作に彼のツアーバンドが参加しているのは事実だけど、楽器の大半はポールが自分で演奏しているんだ。ドラムもほとんど彼が叩いてる、ポールは素晴らしいドラマーだからね。エイブ(・ラボリエル)がドラムを叩いた曲もあるけど、今作の大部分はポールと僕がエンジニアたちと一緒に作り上げていったんだ。僕もちらほら楽器を担当してるよ。ベースはほぼ全部ポールだね。彼はピアノもたくさん弾いてるし、ギターを弾いてる曲もある。バンドが参加してるのは数曲で、それ以外はほぼポールが独りで録ったと言っていい。
 
ーすべての楽器をポールが担当した曲をひとつ挙げてもらえますか?

『Conidante』はほぼポールの独演だね。そういう曲でも、スタジオミュージシャンが少しだけチェロやツィンバロン等のストリングスを重ねていたりするけどね。アビー・ロードでのセッションは特に素晴らしかった。あそこで仕事をするのは初めてだったんだけど、ポールが中を案内しながらいろんなエピソードを聞かせてくれた時は興奮したよ。

ー そこでの経験について詳しく教えてください。

とにかく素晴らしかったの一言に尽きるね。ポールの話を聞いていると、若かりし日の彼やジョンたちの姿が目に浮かんで来るんだ。彼らにもそんな無邪気な日々があったんだなって思ったよ。「ここで弾いて録ったやつを、階段で上に駆け上がって聴くっていうのが最高に楽しかったんだ」なんて話してたよ。ビートルズのアルバムを作っている若き日の彼の姿を、僕はありありとイメージすることができた。すごくピュアだったんだと思う。別のスタジオでセッションが行われてた時に、ジョンと2人でどこかに隠れてクスクス笑ってたこととか、スタジオでのエピソードは尽きることがなかった。その時にレコーディングされた曲のトラックを個別に聴いてみると、彼らの笑い声が入っているかもしれないね。

スタジオのコンソールにも様々なエピソードがあった。そのコンソールには、クラシックとポップスのセッティングを切り替えるスイッチがついてた。ビートルズのレコーディングの時にはポップスに設定されてたんだけど、ジョンとポールは「クラシックに設定するとどうなるんだろう?ポップスとの違いは何なんだ?」って訝しんでたらしいよ。自分たちのレコーディングは手抜きなんじゃないかってね。

ーどのタイミングで、セッションの場がアビー・ロードに移ったのでしょうか?

記憶が曖昧なんだけど、おそらく制作の終盤だったと思う。曲は全部出揃ってて、ちょっとしたアレンジを加えるのが目的だったんだ。弦楽四重奏とハーピスト、それにツィンバロン奏者に来てもらって、既存のメロディをなぞったりした。ピアノも少し重ね録りしたと思う。『アイ・ドント・ノウ』のイントロの部分がそうで、個人的にもすごく気に入ってるんだ。

ーセッション開始当初、ポールに指示を出す時はどう感じていましたか?ビートルにあれこれと教示するのは不思議な気分だと思うのですが。

その通りだね(笑)確かに不思議な気分ではあったけど、それが僕に求められていることだったからね。意見が食い違うこともあったけど、彼はいつも僕の考えに耳を傾けてくれた。内容は忘れちゃったんだけど、僕がちょっとした難題を提案したことも何度かあった。そういう時も彼は何も言わずに演奏を続けてて、僕は自分の指示が聞こえなかったんだろうと思ってた。30分後くらいに僕が「ポール、さっきの僕の提案は聞こえてた?」って声をかけたら、「聞こえてたよ。でも聞いてないふりをしてたんだ」なんて言うから、2人で笑ったよ。その数日後に、彼が僕の提案したことを形にした時は驚かされたよ。ボツと思われたそのアイディアに再挑戦して、見事に成功させたんだ。他人の意見に耳を傾けて学ぶ、彼はそういう姿勢を持ち合わせているんだよ。

最初のうちは指示を出すのに躊躇することもあったよ。でも互いに打ち解けて気を遣わなくなってからは、思いついたことをどんどん口にするようになった。僕の出すアイディアを、彼は進んで試してくれた。特に自信のあるアイディアについては、僕が繰り返し指示を出すこともあった。僕のアイディアに賛同しない時、ポールははっきりとそう口にしたし、そういう場合は僕も頑なな態度は取らなかった。何せ相手はビートルだからね。実験的な作品からポップアルバムまで、彼は長いキャリアの中であらゆる作風に挑戦してきた。僕が思いつくアイディアのすべてを、彼は既に実践済みなんだよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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