エレファントカシマシ宮本浩次「4人で報われる…そう思える時期がようやく来た」

―確かにアルバムの中では何度となく“行く”や “ゆこう”という言葉が出てきますから、「Wake Up」がアルバムのコンセプトというは納得です。

宮本:そうなんです。

―言葉で一つ聞きたいことがあるのですが、アルバムの中には“俺”と“オレ”の2つの俺・オレがあります。「神様俺を」では漢字で“俺”。「オレを生きる」ではカタカナで“オレ”。俺とオレの違いは?

宮本:いやぁ、考えてもみなかったですけど……「神様俺を」の“俺”は俺だけじゃないんじゃないかなぁ。男達っていうか、女の子でもいいんだけど、この“俺”は広い俺なんじゃないかなぁと思いますね。

―では“オレ”は?

宮本:「オレを生きる」はこのアルバムの中で歌詞が最後に出来た歌なんですが、この歌は一人称の歌にしたくて“オレオレ”っていっぱい言おうと思ったんです。というのも、11曲目の「いつもの顔で」まででアルバムとしては終わってもよかったんですけど、アルバム全曲を経て最後に出来た歌詞で“結局俺らしく生きるしかないんだぜ”って俺自身が辿り着いたんです。だから「オレを生きる」のオレは宮本浩次のことだと思うんです。

―アルバムの最後に宮本さん自身のことを謳った「オレを生きる」を置いたというのも興味深いですね。

宮本:「オレを生きる」は色んなアプローチができたと思うんですけど、アルバム最後の2曲「いつもの顔で」と「オレを生きる」は純粋にバンドのアレンジで成立しているんです。他の曲たちはアレンジャー・プロデューサーの村山潤の力も大きいし、それこそ「神様俺を」なんかはヒラマミキオ(サポートギタリスト)のギターが相当効いてるわけです。でも最後の2曲は、2013年の急性感音難聴の直後に作った割と古い曲なんで、いろんなアプローチが可能な中で敢えて丸裸じゃないけど4人でやるっていうコンセプトで作った2曲なんです。例えば「Wake Up」や「Easy Go」なんかは前向でやってやるぜっていう歌なんですけど、そうじゃないナイーヴというか荒削りで赤裸々なバンドのサウンドと自分の歌声の曲を最後に1曲入れたかったんです。アルバムのストーリーの締めくくりとして、むしろエンディングだからこそ、曝け出した俺が語っている方がアルバムとしての完成度がより深まるんじゃないかなって思ったので。

―少し虚勢を張ってでも行こう!と叫ぶ俺と、ナイーブで素のオレが混在するからエレカシの歌って信じることが出来るんですが、宮本さん的には前向きな勢いのある曲と、赤裸々な自分の曲と、どっちの方が書きやすい・書きにくいとかはありますか?

宮本:シングル曲「Easy Go」はデビューから30年も経たエレファントカシマシが取り組んでいる夢物語の世界です。もちろん音楽だからそれでいいと思うんですけどね。そもそも俺はエレカシのファーストアルバムが出たら世の中が変わるんじゃないかぐらいに思っていたし、「ガストロンジャー」の後もそう思っていたし、それぐらいの意気込みでアルバムや曲を作ってます。でも曲1曲じゃ世界は変わらないっていうことが分かった上での夢物語の「Easy Go」がみんなに安心感を与えてるって思っているし、これは悪い意味じゃなくて、意識して「Easy Go」は作ってる。パンクのサウンド的に4人でやってるふうに見せて非常に緻密にアレンジされていると思うし、演出されてると思う。でも最後の2曲はそれを経たからできている曲だから、両方大切なんですよ。

―なるほど。

宮本:ちょっと寛いでお酒飲んでいる時の自分、リラックスしてる時の自分って、仕事をしてる自分って違うでしょ? 人間ってその両面があると思うんですよ。だから「オレを生きる」が自分のすべてとは思わないし、もちろん「Easy Go」が俺っていうかエレファントカシマシのすべてもないと思うんです。

―わかります。

宮本:生活も同じですよね。もうヘトヘトに疲れてる時でもやらなければならないことがあれば労働するじゃないですか? もうやりきれないって思って目覚めて、何でこんなことしなきゃいけねぇんだって口では言いながら、ご飯を食べて外に出て歩き出すと太陽が照ってて風が吹いてたりして地下鉄の駅まで行く間に元気になってきて、電車乗ったら段々盛り上がってきて“ゆこう go go go”ってなっていくんですよ。でも、一日が終わる時間になると家に帰ったり呑みに行ったりしてリラックスをする。そのリラックスしてる時が「オレを生きる」であり「いつもの顔で」なんですよね。だからこのアルバムは朝から夜なんですよ。「Wake Up」で起きて「Easy Go」で出かけて、途中「i am hungry」があって……もしかしたら、意識してなかったですけど一日なのかもしれないですね」

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