マイク・シノダ1万字インタビュー:チェスター・ベニントンの死と自身の現在地

冒頭曲の「プレイス・トゥ・スタート」から、最終曲の「キャント・ユー・ヒアー・ナウ」を書き上げていく過程は、彼の心情を大きく変化させていったという。『ポスト・トラウマティック』は、彼が大切な人間を失ったという現実を受け入れられるようになるまでの、9ヶ月間にわたる精神面の変遷を描いた作品だ。歌詞の中には自意識の膨張を抑えきれず、理性的な言葉を見つけられなかった部分もあるという。本作には「ホールド・イット・トゥギャザー」のバースデイパーティーの一節のような、彼の日常を切り取った描写が数多く登場する。

「あのラインは特に印象に残っているもののひとつだ」彼はそう話す。「普段は『これは曲になるかもしれない』なんていう風に、日常のワンシーンを書き留めておくようなことはしないんだ。このアルバムにおけるそういう描写は、俺が創作活動にいかに没頭していたかを物語ってると思う。その幾つかは、アルバムにおける個人的ハイライトと言ってもいい」

「このアルバムを作ることは、俺のキャリアにひとつの区切りをつけるっていう意味もあったんだと思う。『思いはすべて吐き出した、もう言うべきことはない。このチャプターは終わりを迎えた』そんな風に感じてるんだ」彼はそう話す。「普段なら恐怖を伴う感覚だ。でも俺にとっては、新しいチャプターの幕開けを告げるコールだったんだ。このアルバムを完成させたことで、こういう区切りのつけ方もあるってことを学んだよ」

彼の描く絵がそうであるように、その音楽もまたベニントンの死と切り離して受け止められることは決してないということを、シノダはある時点で理解したという。「アバウト・ユー」のコーラスでは、その思いがこう歌われている。「思い浮かべるのは別の誰かなのに、気づけばそれはお前の姿をしているんだ」シノダはこう話す。「チェスターのこと以外にも、俺は曲にしたい思いをたくさん抱えてる。でも人々は、何もかもをあの悲劇的な出来事と結びつけてしまう。そのもどかしさを曲にしたかったんだ」

そのコンセプトは『ポスト・トラウマティック』をリリースするべきかどうかという葛藤とも結びついていた。「有名人の身に起きる出来事を、世間はいつだって深読みしようとする」彼はそう話す。「ある男性が彼女が別れた途端、『知ってる? 彼はコーヒー党なのに、今朝は紅茶を飲んでたらしいわよ。きっと彼女と別れたせいね』なんて世間は噂し始める。本当のことは誰にもわからないのにさ。インターネットは誰かのイメージを勝手に作り上げてしまうんだよ」

自身もその状況に置かれるであろうことを「ある程度は覚悟している」と話す彼は、他人と気まずいやり取りを交わすことにも慣れたという。

Translated by Masaaki Yoshida

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