マイク・シノダ1万字インタビュー:チェスター・ベニントンの死と自身の現在地

ベニントンがこの世を去って以来、シノダは誰かの死を悼む際に理性が働く余地はないと考えるようになった。約50年前、精神分析医のエリザベス・キューブラー・ロスは、否定、怒り、交渉、鬱、そして許容という、悲しみにおける5つのステージの存在を主張した。しかしシノダは、各ステージの時系列について異を唱える。

「誰かの死と向き合うっていう行為は、様々な感情に順番に向き合っていくことだと思ってた」彼はそう話す。「実際はそうじゃない。家族や友人がその人物の死を悼む時、彼らは同じタイミイングでまったく異なる感情を抱えている。その状態はカオスへと変貌していくんだ。精神的脆さを露呈する人間もいれば、ただ悲しみに暮れたり、怒りに身を任せる人もいる。かと思えば、中にはその事実を深刻に受け止めようとしない人間だっている。そういう感情のズレは、やがて人間関係に影響し始める。俺が1人で作品を作ろうと思ったのは、そのカオスから自分を遠ざけ、自分自身の感情と向き合おうとしたからでもあるんだ」

FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグが最愛の夫を亡くした後に執筆した『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』は、シノダにとって大きなインスピレーションのひとつだったという。「あの本の中で、彼女は自身の『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』について、こう振り返っているんだ。『シングルマザーになり、いろんな選択肢が失われて初めて、当時見えていなかった問題点に気がつくようになった』」彼はそう話す。「すごく共感できたよ。彼女のキャリアは俺のそれとはかけ離れているけど、その姿勢には学ぶことが多くあった。それが自分の人生にどう影響してくるのかは分からないけど、きっと自分をどこかに導いてくれると感じてるんだ」

昨年10月、リンキン・パークは3時間に及ぶベニントンのトリビュートコンサート(当日シノダが披露した新曲「ルッキング・フォー・アンサー」は、アルバムの流れに合わないとして収録が見送られている)を開催したが、シノダはバンドと共にアルバムを作ることを避けた。例外的にギタリストのブラッド・デルソンが「メイク・イット・アップ・アズ・アイ・ゴー」と「ランニング・フロム・マイ・シャドウ」に共同作曲者としてクレジットされているものの、シノダは個人的な繋がりを持つアーティストたちと共に本作を制作している。前述のモレノのほか、「ブラッド・イン・ザ・カット」にはK・フレイが、そして「ブラックベアー」にはマシン・ガン・ケリーが参加している。

「過去数年間で、俺はソングライターとして大きく成長したと感じているんだ」彼はそう話す。「それはヒット曲を書けるようになったっていう意味じゃない。ある曲に対して、多様なアプローチができるようになったってことなんだ。以前は曲の大半を俺が一人で書き上げて、スタジオでバンドのメンバーに弾いてもらうっていうやり方だった。彼らと一緒に曲を作り上げていくこともあったけど、あまりいい結果に繋がらなかったんだ。でも(リンキン・パークの2014年作)『ザ・ハンティング・パーティ』の一部、それと『ワン・モア・ライト』(2017年)の大半で外部のソングライターと作業した経験を通じて、俺はそれまでとは異なる作曲アプローチを身につけた。それは今作にも生かされているし、その制作過程からも多くを学んだと思う」

「あらゆる曲にはテーマがあるべきだ」彼はそう続ける。「人生そのものに退屈してしまっているような状況では、優れた作品は生まれにくい。でも人生が波乱に満ちていると、想像力の泉から無数のアイディアが湧き起こってくるものなんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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