未完成だからこその魅力、XXXテンタシオンがシーンに与えた影響とは?

ポスト・ストリーミング世代のアイコンだったXXXテンタシオン(Photo by Dan Garcia)

20歳という若さでこの世を去ったラッパーのXXXテンタシオン。数々のスキャンダルの陰に隠れたその功績を振り返る。

南フロリダ出身のラッパー、ジャセー・“XXXテンタシオン”・オンフロイは、ポップス史上極めて特異な存在だった。

17歳で高校を中退する直前、彼がSoundCloudにアップロードしたトラックは、ヒップホップというジャンルの定義を覆した。レコード会社やパブリシストはおろか、ラジオ局やメディアのサポートも受けることなく、同曲はヒットチャートを駆け上った。ほどなくして、ヒップホップ界のスーパースターたちも彼の動向に注目するようになる。公式らしき唯一の写真が2016年撮影のマグショットのみという状況のなか、彼はその後の1年間でファンベースを飛躍的に拡大し、新たなサブジャンルを確立してみせた。その1年後にチャートのトップに躍り出たアルバムは、次々と生まれるフォロワーを寄せ付けない圧倒的なオリジナリティを誇っていた。しかし不幸にも、彼は20歳という若さでこの世を去ってしまった。1959年に17歳で他界したリッチー・ヴァレンスを除けば、21歳に満たずしてこれほど大きな影響力を誇った存在は他にいない。

時代を象徴するサウンドを生み出し、業界の常識を逸脱し、ジャンルの壁を軽々と飛び越えてみせたXXXテンタシオンの功績は、妊娠していた元彼女に暴力を振るっていたというスキャンダルの陰に隠れてしまった。Pitchforkが公開した供述書の一部、そしてMiami New Timesに掲載された記事によると、彼は長期にわたってガールフレンドに肉体的および精神的苦痛を与え続けており、その女性は視神経を損傷したという。生前の彼は世間の非難にも動じる様子をみせず、ジョーク交じりにスキャンダルに言及することもあった。各媒体およびソーシャルメディアは彼を締め出そうとし、中にはボイコットする動きもあったが、彼が遺した音楽の影響力は今後も生き続ける。

ローファイで歪んだサウンドが印象的な彼のデビュー・シングル「Look At Me!」は、ビルボードTop40史上最も異質な楽曲のひとつだろう。2分半に満たない同曲は、1989年頃にバッド・イングリッシュやホワイト・ライオン等に混じってチャートを賑わした、セバドーやトール・ドワーフスといったローファイなインディ・バンドたちを彷彿とさせる。卑猥で生々しいリリック(「俺は白人のビッチをスターバックスに連れていった / その喉にぶち込んでやった」)に加え、まるで1ブロック先の車のカーステレオから流れてくる爆音をそのまま録ったような粗いサウンドは、ラジオ受けという概念とは完全に無縁だった。

ソウルジャ・ボーイやリル・Bが曲作りをコンピューターのみで完結し、インターネットで拡散することでヒップホップにおけるパンク流DIY革命を遂げたのに対し、XXXテンタシオンとプロデューサーのRojasは暴力を美化し、曲の尺における基準を無視し、未熟なプロダクションの魅力を堂々と訴えた。「Look At Me!」はわずか15分のうちにレコーディングされたという。

「まともな機材なんてひとつもなかった。大事なのはどこでもすぐ録れるってことだけだった」。彼の仲間だったスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドは、同曲のレコーディング環境についてそう語っている。「歪んだサウンドの荒ぶるエネルギー、それが俺たちの専売特許だった」

Translated by Masaaki Yoshida

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