ローリングストーン誌が選ぶ「5月のベスト・ラップ・アルバム」トップ10

7. リル・ベイビー『ハーダー・ザン・エヴァー』

アトランタの有力レーベル「クオリティ・コントロール」の大プッシュもあって、リル・ベイビーは一気にスターダムをのし上がった。魅力的な声の持ち主である彼の初のメジャー・アルバムとなる今作では、オートチューンを多用し嘯くだけでなく、腹に響くようなタフでラフなラップをかますスキルも持っている。スタイル的にはストリーミング時代のストリート・ラップのそれだが、ありきたりのラッパーと違うのは、リル・ベイビーは自信にあふれている点だ。例えば「イエス・インディード」で競演したドレイクのバーでは、ドレイクがリル・ベイビーのタイトなフローを真似しているようにも聞こえる。アルバムにソリッドな楽曲を提供しているのは彼のプロジェクトを無名時代から支えるプロデューサー陣だ。トラップ風のドラムに不協和音的なシンセを乗せたOZプロデュースの「バンク」、ケイ・グローバル制作の「キャッシュ」はネオン街を連想させるようなシンセの音色が特徴的だ。今人気爆発中のリル・ベイビーは「サウスサイド」にてドラッグ・ディーラーだった過去を回想している。「ライト・ナウ」内のリリックでは「再び牢屋に入れられるっていう悪夢で目覚めることがあるんだ。だからオレは大量のリーン(合法ドラック)を取って起き続けるのさ」

8. プレイボーイ・カルティ『ダイ・リット』

日本のゲーム音楽のようなビート上で、呪文のように同じフレーズを連呼するスタイルを持つプレイボーイ・カルティの曲はリスナーの脳内に独特のリズム感覚を作り出す。このスタイルは昨年発表したセルフタイトルのアルバムで開花したものだ。今作『ダイ・リット』でもそのスタイルを継続しており、耳ざわりの良いフレーズをリピートして聴く者の心をキャッチしている。アルバムとしてとの繋がりやまとまりを重視した作品というよりも目を真っ赤にしてゲームに集中させてアドレナリンを常に沸き起こさせる19曲といった感じだ。イントロにあたる「ロング・タイム」は壊れたレコード針から聞こえるような8ビットのチープなメロディーと「こんな感情はしばらく味わってない」と歌うカルティのコンビネーションが光っている。「リーン・フォー・リアル」ではUKグライムのMCであるスケプタをゲストに迎えており、「チョッパ・ドント・ミス」ではヤング・サグの音程を無視した歌声が、ドリーミーなキーボードを乗せたトラックにアクセントを与えている。アルバムを通して、ニッキー・ミナージュやリル・ウージー・ヴァート等多くのゲストをフューチャーしているが、主役の存在を消す者はおらず、カルティは曖昧で心地よく(「スーパー・マリオ」ゲーム内の)マッシュルーム・キングダムを彷徨っているのだ。

9. レイ・シュリマー『SR3MM』

3枚組のアルバムとなるミシシッピの2人組、レイ・シュリマーの新作はアウトキャストの名作『スピーカボックス/ザ・ラヴ・ビロー』や近年ではドレイクの『ヴューズ』、ミーゴスの『カルチャーII』やクリス・ブラウンの『ハートブレイク・オン・ザ・フル・ムーン』に並ぶ勢いでセールスを伸ばしている。ディスク1では二人のMCが共に参加し、前作の『シュリムライフ』を継承した、合法ドラッグであるXanaxをキメたような強烈なサウンドが特徴だ。特筆すべきは彼らのフック(サビ)の上手さだろう。トラック「バケッツ」を聞けばわかるように彼らは、みなが何百回でも歌いたくなるようなフックを作っている。続いてスウェイ・リーのソロアルバムとなるディスク2であるが、3枚のディスク内で最も目立った存在になっている。フレンチ・モンタナとの「アンフォーゲッタブル」やジェネイ・アイコとの「サティヴァ」でも見せた彼の持つトロピカルでポップな歌声とフローは、ソロになることで一層際立っている。「冬は終わった。太陽を迎えよう」とスウェイはサマー・チューンである「ロスト・エンジェルス」で歌う。注目曲「ハートブレイク・イン・エンチーノ・ヒルズ」ではマリー・モールとスコープ・ディーゼル作の繊細なスティール・ギターをフューチャーしたトラック上でスウェイは彼自身の感情を深く掘り下げている。ディスク3はスウェイの兄弟のスリム・ジミーのソロ作となっており、彼のトラップスタイルのチャンティングは、「今夜ストリッパー達とセックスするぜ」と叫ぶ「プレイヤーズ・クラブ」でも聞かれるように、トランタの伝説的なストリップクラブである『マジック・シティ』のような場所をも大いに沸かせるだろう。



10. ロイス・ダ・ファイブ・ナイン 『ブック・オブ・ライアン』

「ラップ業界にはミドルクラスは存在しない」と断言するロイス・ダ・ファイブ・ナイン は現在40才になったデトロイト出身ラッパーで、この新作はビルボードのアルバムチャートでトップ25に入った3枚目のアルバムになる。今年はDJプレミアとのユニットであるプライム2名義でもアルバムをリリースしており、この強力なコラボ作はロイスが現在ではマイノリティーになりつつある黄金期のヒップホップ・シーンを今でも代表していることを証明してみせた。今作『ブック・オブ・ライアン』はロイスが彼が家庭内のトラブルや2000年代初期にアルコール依存症に苦しんだ過去を告白しながら徐々に ボルテージが上がっていく。「コカイン」内では「親父と同じアル中の苦しみを味わったことを誇りに思うぜ」と感情をあらわにするロイスは、録音後に音程を修正するオートチューンといったギミックは使用しない。J・コールとの「ボブロ・ボート」や「ライフ・イズ・フェアー」といった楽曲では彼が経験した苦難と痛みが生々しく綴られていて、ラップ業界での自身の立ち位置への不満をといったリリックよりもリアルな印象を与えている。

Translated by Hiroshi Takakura

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