80年代幻の名作「スパイナル・タップ」34年を経て日本初公開:最高に笑えるロック映画の裏側

1984年のスパイナル・タップ (Photo by Pete Cronin/Redferns)

ローリングストーン誌が選ぶ「バンド映画ベスト25」で1位を獲得した、1984年に全米公開された幻のロック映画「スパイナル・タップ」。34年の時を経て、6月16日より日本で初公開されることが決定した。本作は、「スタンド・バイ・ミー」のロブ・ライナー監督の初監督作品であり、架空のロックバンド「スパイナル・タップ」の全米ツアーに密着し、当時隆盛を極めていたハード・ロック/ヘヴィ・メタル文化や音楽を痛烈に風刺したカルト的人気を誇るロック・モキュメンタリーだ。ここでは、1984年当時のローリングストーン誌の記事をお届けする。

1984年5月24日ローリングストーン誌掲載記事

映画『スパイナル・タップ』のクリエーターは、架空のヘヴィメタル・バンドの裏側を風刺を効かせて描いたリアルなフェイク・ドキュメンタリーを通して、最近は現実と作り話の境界線が曖昧になっていると言いたいようだ。ロサンゼルスのクラブMusic Machineで、この架空のバンド、スパイナル・タップが演奏したこともその一つと言える。クラブは鋲付きの黒い革のジャケットをまとったファンでごったがえした。「僕が会場に入ったら、みんなが『ナイジェル!』って叫びだした。ヘヴィメタル・ファンらしいクレージーな表情で『ナイジェルだ! ナイジェルが来た!』って叫ぶんだよ」と、ナイジェルが言う。

短髪で育ちの良さそうな外見をしたこの男の本名はナイジェルではない。ロック・バンドにも入っていない。彼はクリストファー・ゲスト、36歳。俳優、脚本家、コメディアンだ。36歳のマイケル・マッキーン(デヴィッド・セントハビンズ役)、40歳のハリー・シェアラー(デレク・スモールズ役)、37歳のロブ・ライナーも同じだ。そんなゲストが長髪のかつらをかぶり、ピチピチのパンツをはき、ギターを持ち、残念なジェフ・ベック的な風貌のナイジェル・タフネルに変身するとメタル・キッズたちが熱狂する。

映画のためにコンサート風景を撮影していたときも同じだった。「演奏している最中、何人もの女の子が盛りのついた犬みたいにハリーの足にすがりついていたよ」と、ゲストが教えてくれた。彼は70年代初期の “ナショナル・ランプーン”のラジオ・シリーズなどに作家兼出演者としてかかわっていた頃からロックンロールのパロディを手がけていた。「女の子たちがTシャツを引きちぎって、オッパイを露わにしたことも2〜3回ある。僕たちを見ながら『愛している、大好きよ』と言いながら。あれは本当にシュールな光景だった」とゲストが続けた。

「あれは人生を模倣したアートだ」と『スパイナル・タップ』の監督ロブ・ライナーが言う。かつて彼はTVのシットコム『All in the Family』でミートヘッド役を演じていた。

「こっちの演出や演技が現実味を帯びれば帯びるほど、現実の方もこっちに近づいてくるって感じだった」と、元サタデー・ナイト・ライブの出演者で、スパイナル・タップのベーシスト、デレク・スモールズを演じたシェアラーが付け加えた。「どの場面も現実の方が僕たちのはったりを引き出している感覚だった」と。

スパイナル・タップが現実のヘヴィメタル・バンドになれない理由はない。シェアラー、ゲスト、マッキーンのルックスは完璧だし、サウンドも態度もヘヴィメタルそのものだ。その上、ビバリーヒルズにある彼らの広報担当の自宅で、マスターしたヘヴィメタル的話し方を見せてくれた。

「アイアン・メイデンのMNEのインタビュー音源を手に入れてね」とマッキーン。彼はTVシリーズ『ラバーン&シャーリー』のレニー役で名を知られるようになり、『スパイナル・タップ』では金髪カーリーヘアのギタリスト兼リード・ボーカリストのデヴィッド・セントハビンズを演じている。「本当に最高だったよ。彼らの話し方は『そうだな、俺たちは自分を吟遊詩人だと思っている。つまり、太古の昔から国内を放浪して愛の歌を作って歌ったトルバドゥールだ……』なんだよ」と、イギリスのロック・スター風の声色を混ぜながら説明した。

そこにシェアラーが加えた。「あのインタビューではファンなら絶対に聞きたい質問が全部出ていた。例えば『これって人類史上一番バカげた音楽じゃないのか?』とか」。

「それはな、そんなに単純なことじゃないよ。イエス・ノーで答えられる質問じゃないね、だろ?」と、ゲストがナイジェルになりきって答えた。

Translated by Miki Nakayama

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