最後のワールドツアーが幕を開けたスレイヤー 野性を呼び起こすサウンドの秘密

スレイヤーは常に苦戦を強いられてきたが、熱狂的なファンを増やしながらメインストリームに強烈なインパクトを与えてきた。1981年に米ロサンゼルスで結成されて以来、MTVやラジオ局から一切のサポートを受けずにゴールド・レコードを4つ、グラミー賞を2つ獲得している。ローリングストーン誌のオールタイム・グレイテスト・メタル・アルバム・トップ100には3枚のアルバムが入っていて、6位は彼らの試金石的なアルバムとなった1986年の『Reign in Blood』だ。トーリ・エイモスはスレイヤーをカバーし、パブリック・エネミーとリル・ジョンは彼らをサンプリングし、ビースティー・ボーイズはゲストとして彼らをフィーチャーし、ショウタイムの連続ドラマ『Californication』は毎週スレイヤーを引き合いに出し、ホラー映画からHBOのヒット作品までスレイヤーの楽曲が頻繁に登場し、リアリティ番組のカーダシアン一家がケンカを始めるとスレイヤーの曲が流れた。



これだけ人気が高かった理由は、彼らが常にエクストリームを目指し続けたことだ。最速のギター・パートを作り、最も暗いメロディを集め、恐怖に支配されたリリックを歌う。アルバム『Reign in Blood』はカセットテープで発売されたとき、そのサウンドの衝撃も凄かったが、アルバム1枚分の収録曲が片面にすべて収録されており、もう片面にも同じ音源が入っていたこともインパクトを与えた。

彼らが作り出したリフを聴いて驚いてほしい。「Mandatory Suicide」の圧倒的な尊厳、「South of Heaven」の超俗さ、「Seasons in the Abyss」のサイケデリックさ、「Disciple」の粉砕感、「Iron Man」や「Raining Blood」の破壊的でいて耳に突き刺さる音など、枚挙に暇がない。

では彼らの歌詞を見てみよう。地獄、サタン、黒魔術、戦争、連続殺人犯、死姦症というテーマから逸れることのない歌詞ばかりだ。さらに驚きなのは、一つ間違えば陳腐になるネタなのに、アラヤが歌うとファンはその歌詞に熱狂するのである。

コンサートでも、レコードでも、スレイヤーはファンが愛し、ファンが嫌い、ファンがともに歩みたいバンドであり続けた。意図的に論争を誘発することも多々あった。「Angel of Death」はナチス親衛隊将校で医師のヨーゼフ・メンゲレのこと(「メンゲレが悪党だという歌詞は書いていないし、その理由は……言う必要もないと思う」とギタリストのジェフ・ハンネマンが以前言っていた)だし、1996年に発表したマイナー・スレット「Guilty of Being White(白人であることの罪)」のカバーでは、歌詞を“guilty of being right(正しいことの罪)”に書き換えた。

レコードを逆回しに聴くと息子の自殺を幇助するメッセージが聴こえたとして、自殺した少年の両親がオジー・オズボーンを訴えた1年後、スレイヤーはアルバム『Hell Awaits』に、逆回しで聞くと「join us」に聴こえるお経風の囁きを入れた。同じテーマでもマリリン・マンソンやロブ・ゾンビは皮肉とエンターテインメント要素でショックを与える曲を書いているが、スレイヤーはド真ん中に直球を投げ入れるのである。

Translated by Miki Nakayama

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