アークティック・モンキーズ最新インタビュー:未だ謎多きニューアルバムの全容

SFには現実世界のカウンターパートという側面がある

2016年にターナーがピアノで曲を書いているというニュースは、あっという間に知れ渡った。「モンキーズの前作はすごくアメリカっぽかったってよく言われるんだけど、個人的には今作はその傾向がより顕著だと感じてるんだ」。彼はそう話す。その傾向は歌詞に登場する「戦場の有様」「真実を溶解させる(人物)」「レスラーを思わせる自由主義世界のリーダー」といった言葉にも表れている。しかし、ヴァーチャルリアリティの世界に没頭し、急速に開発が進むスペースコロニーへの移住を夢見る人々についての描写は、Vertegrandと格闘し続けるなかで、彼が現実逃避というテーマを追求していたことも示している。「サイエンス・フィクション」と題された曲が収録されていることからも窺えるように、アルバムにはSFの世界観が随所に散りばめられている。「SFには現実世界のカウンターパートという側面がある」。ターナーはそう話す。「そのコンセプトを面白いと感じたんだ」

本作におけるターナーのレイドバックした歌声は、荒廃した世界に生きる人々を、コンピューターが可能にする月面の豪華なホテルへと誘う。「マイクを前に片手で歌詞を書き起こしながら、もう片方の手で8トラックのレコーダーを操作したりしていた」。ターナーはそう話す。その素材を60年代末に出回ったRevox A77に通すことで生まれる「スラップバックっぽいディレイと揺らぎ」は、キッチュでレトロフューチャリスティックなムードを演出している。不可思議な魅力を備えた本作は、世界が多くの危機に直面する現在において、現実逃避の対象としてのエンターテインメント、そしてその創造主であろうとする人間の欲望を描き出す。



多くのアークティック・モンキーズのファン、特に『AM』での唸るようなギターサウンドを期待しているリスナーにとっては、本作が意表をつく内容であることをターナーは自覚している。ドラマーのマット・ヘルダースとともに、遅れてカフェにやって来たギタリストのジェイミー・クックは、2017年2月にターナーから初めてデモを聴かされたときのことについてこう語る。「驚いたよ、アレックスがああいう方向を追求しているとは思いもしなかったからね」と言葉を選びながら、クックは笑顔でこう続けた。「何度か聴いてみて、やっと出てきた言葉は……『どう受け止めるべきか分かんねぇよ』だったな」

Translated by Masaaki Yoshida

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