デビュー20周年のm-floとダンス・ミュージックの20年を振り返る

ダンス・ミュージックの世界を一変させたEDMの熱狂の中、見つめ直したm-floの原点
 
ー今の時代、プロデューサー・ユニットがヴォーカリストを使うことって多いじゃないですか。でもEDMが出て、2010年代以降はDJ出身のダンス・ミュージック・アーティストじゃなくて、逆パターンになってきている。ダンス・ミュージックのアーティストがDJをしていて、DJの下積みがいらなくなったっていう状況で、プロダクションの需要がより増していると思うんです。

☆Taku:いかにいい弾を持ってるか。

ーどれだけ威力のある曲を書いて作っているのかが勝負で、さっき☆Takuさんが話してくれたテクノとオールミックスの例はDJのスタイルとしては昔のままなんですよね。だからそこにクリエイティヴィティを感じないというのは僕も分かるんです。今はカルヴィンにしたって、ヒット曲があるからラスベガスのクラブで高額なギャラでプレイができるわけじゃないですか。そういうふうにEDMは賛否両論はあったけれど、構造を変えた感じがします。

VERBAL:分かりやすい方程式ができたので。要はカルヴィンだったらラスベガスのクラブで半年契約するとギャラがいくらみたいな。そうしたら客も入るし分かりやすいですよね。彼らが新しいロックスターというか、レジデント・ロックスターみたいな。ビジネスの方程式にすっぽりとハマる形態の音楽で、しかもドロップで盛り上がるという音楽的にも分かりやすい。だからさっき話したベースメント・ジャックスのライブの演出にしても、面白かったのに何でみんなやらなかったかというと、独自のやり方で彼らにしかできないものだったから。それに対してEDMはヘンな意味じゃないですが、誰でもできる。今日DJを始めた人が、明日クラブでやったらそこそこいい選曲をすれば盛り上がっちゃう。分かりやすい感じはあるかもしれないですよね。


ウィル・アイ・アム(左)とデヴィッド・ゲッタ(右)。ゲッタはEDMブームの立役者の一人だが、そんな彼にブラック・アイド・ピーズの大ヒット曲「I Gotta Feeling」のプロデュースを頼んだのはウィル。アメリカのポップ・シーンにEDMのテイストを広めたという意味で重要な一曲である。(Photo by Getty Images)

ーそこで差別化できるのは、マーティン・ギャリックスとか、自分のヒット曲があるからですよね。

☆Taku:僕はEDMは黒船だと思っていました。必要なもの。EDMはどうやって生まれたかというと、エレクトロやトランスなどいろんなアーティストが実験的なことをして、それが集まって大きくなっていったものがEDMというムーブメントで。日本にとってダンス・ミュージックというものを知ってもらうためにも、時計の針が進むものとしていい影響を与えると思っていたから、もっともっとEDMに影響を受けたポップスが出てきてほしいと思ったし、世界に近付くために日本にとって重要なものだと思っていたけど、ちょっと作法になりすぎちゃったところが残念なところではあります。

ー違った形で固まりましたよね。

☆Taku:何が皮肉かと言うと、もともと進化して生まれたものだったんだけど、固まっていっちゃった。実験的なものとして生まれたんだけど、実験的じゃなくなっていってしまったというか。じゃあ、実験的なことをしてるアーティストがいないのかと言ったらそんなことはないんだけど、そういう音楽はあまり評価されない。トレンドなんですよね。

ー2010年代に入ってからは、特にそういう流れが日本では強いのかなと。

☆Taku:m-floで言うとEDMに関して面白いのが、去年アメリカに行きまくったんですけど、そのときにm-floが好きでずっと聴いてた人に、「お前らがEDMをやったことに非常にがっかりしてる」って言われて(笑)。何が言いたかったというと、EDMに対してどうこうじゃなくて、俺らは違うものが聴きたいんだと。アメリカでこういう音楽はしょっちゅう流れてるから、『Planet Shining』や『EXPO EXPO』、lovesシリーズでやってた頃のもっとぶっ飛んだものを俺たちは求めているんだって言われて。僕はそのとき、EDMを日本に少しでもたくさん広めたいし、面白い音楽だと思っていたし、自分らがやりたいことでもあったんだって言ったんだけど、内心ではそうなんだと思いながら聞いてて。そういうこともあって過去の作品を聴いていたら、やっぱり面白かったなって思うことがあって。

VERBAL:あとはDJをするときに自分たちの曲をかけたいよねっていう思いがEDMが出てきた頃はあった気がします。『Planet Shining』『EXPO EXPO』って曲はいいけどフロア向けの曲じゃないと思うし、実際に☆Takuも「come again」のDJ用のトラックを作ってたりしたよね。そういう意図もあったんだけど、外面的には「ああ、そっちの方向に行っちゃうの?」って思われたってことでしょ?

☆Taku:いいふうにハマれなかったね。だけどすごく大事なことだったと思うし、EDMを広めたかったってことだけじゃなくて僕らがやりたかったことだし。

VERBAL:実際にフィーチャリングさせていただいた人たちも本当にフレッシュだったしね。海外のヴォーカリストを入れたり、いろんなミックスをしたりしたから、ポップなものから変わったものまでやってみようっていう意図や気持ちはあったけど、そのマインドは思っていたほど伝わらなかったのかもしれないね(笑)。

LISA:私には伝わったよ。カッコよかったし、冒険してるなって思った。m-floこう来るか!っていうのは正直あったけど、でもそれが逆に面白かった。

ー海外のEDMと同じ感じではなかった。

VERBAL:そうそう!

☆Taku:そうなんだけどね。

VERBAL:ちょっと“側(がわ)”に捉われていたよね。lovesの次は何なんだ?ってときにm-floの名前すら出さない戦略とか。あと当時はすごくテクノロジーにハマってたので、モーションキャプチャーを使って何かやろうみたいな、これは僕だけかもしれないけど新しいものを突き詰めることに捉われすぎて、面白さとかワクワク感を忘れ始めちゃったのかなって気はします。要はマッピング自体にみんな凄いと思うんじゃなくて、内容じゃないですか。例えば、ディズニーランドのホーンテッドマンションの銅像にプロジェクションされているのも一応マッピングだけど、昔はマッピングすげぇ!って思っていたわけじゃなくて、銅像が歌ってるってところがポイントなわけです。だから、そういう視点を忘れ始めちゃったのかなって感じはあります。やっていたことは悪いことじゃなかったんだけど。

☆Taku:当時は一生懸命やってたしね。

VERBAL:僕たちなりにがむしゃらだったんですけど、そもそもの根幹を忘れていたというか、そこからズレてしまったのかもしれないですね。

☆Taku:m-floってジャンル分けされちゃいけない、カテゴライズされちゃいけないグループなんだなっていうのをつくづく感じていて。例えばヒップホップのマインド、R&Bのソウルフルな魂、ロックやパンクのスピリットはあるんだけど、どこにも属さないのがm-floなんじゃないのかなと。そう再認識して3人で一緒にやってて思うのは、みんなめちゃくちゃ息が合ってる。3人が持っているものをいい感じに出し合っているんです。

VERBAL:昔、不器用なときに作った音楽があって、今は器用になりすぎちゃったから一回リセットしようというのが今年の年始のセッションで。もう一度不器用になることはできないですけど、リセットして新しい感覚でやろうっていうのはLISAが入ってきたことによってまた実現可能になった感じがするけど、どうだろう?

☆Taku:まったく同意見。

LISA:刺激し合えるのが止まらないので。

VERBAL:LISAの刺激が強すぎるっていう(笑)。

☆Taku:それも同感かな(笑)。

LISA:でも大事よね。

☆Taku:フィールすることが大事。

Interviewer = Tomo Hirata Text = Takuro Ueno (Rolling Stone Japan), Motomi Mizoguchi

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