カニエ・ウェストのトランプ愛、二人の共通点を探る

そして、最も暗黒な共通点は二人の政治思想だ。トランプ印の人種差別は独特である。特定の人だけが理解できるウォレス的「法と秩序」の焼き直しを移民排斥と反イスラムの人種排除主義の裏に隠し持っているのである。トランプはアフリカ系アメリカ人のコミュニティに対して本心とは裏腹な虚無主義的な和解を申し出た(「失うものなどあるのかい?」)。自分の門外漢的立場と、民主党も共和党も政治家は裏切り行為を行うという彼らの予感を利用したのである。カニエもツイートに躍起になっていたとき、「オバマはホワイトハウスに8年いたが、シカゴは何も変わらなかった」というツイートでトランプと似たような意見を述べていた。カニエのこのような冷笑主義は、2016年の投票日に投票所に出向いたトランプ支持のアフリカ系アメリカ人の投票者たちをうんざりさせたはずだ。

トランプがホワイトハウスへ引っ越しを行っている最中、カニエはトランプタワーを訪れている。これはアメリカ国民がこれからトランプが新たに描こうとしている地獄絵図になんとか適応しようとしている最中に、たまたま起こったカニエの暴走の一つとして、ほとんどの人が記憶から消したに違いない。トランプが大統領になって1年半が経過したが、我々の多くは新政権に適応していない。カニエはこの現実に屈折した喜びを感じるに違いない。つまり、これは自分たちが攻撃されると思い込むことで警戒心を維持する方法で、勢いよく非道徳な攻撃をしかける純粋な暴力と呼べるカニエのアルバム『Yeezus』を繰り返し聴くことも同じ効果を得る方法だ。この暴力をシャナイア・トゥエインは「正直さ」と誤解し、カニエは「龍の力」と呼んでいる。「虎の血」の称号はすでにチャーリー・シーンに取られてしまったので「龍の力」にしたのだろう。

突き詰めると、カニエをどう思うかというのは、アートとアーティストを別物と見る能力を計る物差しともなり得るだろう。もしくは、ターナー・クラシック・ムービーズでウッディ・アレンの映画を早送りで見ると吐き気をもようすか否かを計る物差しかもしれない。究極に悪趣味な帽子を好むカニエは、原石の美しさと刺激的な矛盾に触れた素晴らしい音楽を作り出す巨大なエンジンでもある。

今週の裏切りが起きるまで、素晴らしさと楽しさを感じながら聴くことができたものは「音楽」」である。作った人間がカスでも音楽はカスだと思わないようにしたいものだ。

Translated by Miki Nakayama

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