レディオヘッド『パブロ・ハニー』知られざる10の真実

3. 『クリープ』で聴けるジョニー・グリーンによるアグレッシブで突き刺すようなギターは、そもそも曲を壊そうとした結果だった

『クリープ』のサビの直前に聞こえる威嚇的なギターは、おそらくこの曲で最も印象的な部分だろう。このギターは、自然発生的に生まれたものだった。彼らの地元オックスフォードからそう遠くない場所にあったチッピング・ノートン・レコーディング・スタジオでこの曲をリハーサルしていた時、メンバーはテープが回っているとは知らず、ジョニー・グリーンウッドはいい加減に弾いていた。「僕らは別の2曲をレコーディングするためにスタジオ入りしていたんだ」と、1993年にセントルイス・ポスト・ディスパッチ紙に語っている。「テープの録音レベルをチェックするために何かプレイしてくれ、と言われたので、前日にリハーサルして良い出来だった1曲をプレイしたんだ。1週間前に書いたばかりの曲で、プレイしたくてしょうがなかった。それがたまたまレコーディングされていたんだ」 ドラマーのフィル・セルウェイは、スタジオ初心者の彼らにとって、そのサプライズ戦略が功を奏したという。「まさかテープに録音されているとは思わなかった。僕らはただ別の曲のためのウォーミングアップをしていただけなんだ。この曲がパワフルに聴こえるのは、僕らがまったくレコーディングを意識せずにプレイしていたからだ」

とてもリラックスした雰囲気だったためグリーンウッドは、のんびりとした『クリープ』のイントロへの嫌悪感をプレイにぶつけた。「動きのない静かなイントロが好きじゃなかったんだ」と彼は後に語っている。「だからギターをハードに弾いてみた。本当に強く叩くようにプレイしたんだ」 そうして他のメンバーから親しみを込めて“ザ・ノイズ”と命名された、一連のミュート・サウンドが生まれた。「ジョニーは曲を壊そうとしてあのサウンドを出したんだ」とエド・オブライエンは振り返る。「彼は最初のバージョンを本当に嫌っていた。だから彼は曲を駄目にしようとしたんだ。その結果、あの曲が出来上がった」 曲の途中で静かなアルペジオとヨークの繊細なヴォーカルを押しのけるように、歪んだサウンドが荒々しく飛び込んでくる。すぐさまポジティブな効果が現れた。ザ・ノイズを含むその時のパフォーマンスが最終的に、ファイナル・バージョンとなった。「我々があれを曲中に残したことに対して、驚きの声を上げたベテランのプロデューサーたちもいた」と、共同プロデューサーのショーン・スレイドは2013年にMTVで語っている。「もちろん我々は、(ジョニーのギタープレイを)残しただけでなく、強烈なインパクトを与えるようにラウドなサウンドにした。そして実際に“ザ・ノイズ”は、この曲自体と同じくらい有名になった」

4. トム・ヨークは『クリープ』のラジオ向けバージョンのレコーディング時、Aメロの歌詞を書き換えるよう説得された

アルバム『パブロ・ハニー』からのファースト・シングルとして『クリープ』が選ばれた際、EMIは、ラジオ向けに“クリーンな”バージョンをレコーディングするようバンドに要求した。つまり、Bメロに入っていた“fucking”を削除するよう求めたのだ。バンドは当初、自ら検閲して削除する行為は「裏切り行為のようだと思った」とジョニー・グリーンウッドは言う。「でも“あのソニック・ユースでもやっている”ことだし、そんなに悪いことではないだろう、と考えるようになった」 ヨークが再びスタジオ入りすることは必須だったため、共同プロデューサーのポール・Q・コルデリーは、あることをヨークへ正直にぶつけようと決めていた。実は彼には、歌詞の一部に違和感を感じる部分があったのだ。

「最初に『クリープ』をレコーディングした時、Aメロの歌詞は今とは違っていた。今となってはどんな歌詞だったか記憶にないが、あまり良い歌詞ではなく、奇妙でこっけいなものだった」と、『エグジット・ミュージック―レディオヘッド・ストーリー』(マック・ランダル著)の中でコルデリーは振り返っている。オリジナルの歌詞の全文は失われてしまったが、「shoulder of lamb, frying in a pan」というフレーズは記憶に残っていたようだ。「(ラジオ向けバージョンをレコーディングするために)再度スタジオ入りした時、“この曲の歌詞はもっと良いものにできる”とトムに言ったんだ。当初彼は“もう出来上がったものだから変えられない”と言っていたが、“もちろん君ならできるさ。僕らは他の部分の歌詞を変えるために集まっているんじゃないか。どうせいくつかのヴォーカル・パートは録り直すのだし。君ならもっと上手くやれるさ”といったんだ」 ヨークは納得し、10分後、ファイナル・バージョンに採用された新しい歌詞を持って戻ってきた。そして問題の“fucking”は“very”に置き換えられた。ヨークの仕事の速さにコルデリーは、年を追うごとに感嘆の度合いを増している。「その時以降、他のアーティストにも同じ手を試してみている。“ヘイ、今からすぐやり直して、もっと良くしてみないか?”という感じで。でも実際にそれができるアーティストは稀だ」

5. 『エニワン・キャン・プレイ・ギター』でジョニー・グリーンウッドは、絵筆でギターを弾いている

「他のバンドのギターをまったく聴いたことがないんだ」とジョニー・グリーンウッドは吐き捨てた。1998年のことだった。レディオヘッドの天才ギタリストと言われた人間が発した、驚きのコメントだ。「他のギタリストを崇拝することは、つまりギター雑誌を買うことさ。誰でもギターを弾くことはできる。でも曲作りはものすごくハードルが高い。スティーヴ・ヴァイに傾倒するなら、エルヴィス・コステロを崇拝するね」と言う。彼の平等主義的な考え方は、『パブロ・ハニー』からのセカンド・シングル『エニワン・キャン・プレイ・ギター』の全体を通して明確に見られる。同曲は特にジム・モリソンを標的にし、ロックンロール・スターダムの神話を崩した。ジム・モリソンは、オリバー・ストーン監督が大規模予算をかけた伝記映画『ドアーズ』のおかげで、死後に人気が高まった。「ステージに上がって、悪さして、それで有名になっていくというだけのストーリーさ」と1993年にヨークは、同曲についてメロディ・メーカー誌のインタビューにコメントしている。「1968年のジム・モリソンは素晴らしかったと思う。だけど皆がその幻想を忘れられないんだ」とヨークは言う。同年に出演したMTVでのパフォーマンスでヨークは、この主張をさらに露骨に表現している。「もし俺が髪を伸ばしたらジム・モリソンになれるぜ」という皮肉を込めて歌った後、「デブ、見苦しい、死ね!」と叫んだのだ。

同曲のレコーディング中、レディオヘッドは曲のタイトルをそのまま実践しようとした。「僕らはその辺りにいた全員をスタジオへ呼び入れた」とコルデリーは著作『エグジット・ミュージック―レディオヘッド・ストーリー』の中で語っている。「5人のバンドメンバーに加え、ショーン、僕、スタジオのオーナー、料理人まで、ひとりひとりにギターを持たせた。それぞれに担当パートが割り当てられ、その部分では好きに弾いていいってことになったんだ。“誰でもギターを弾くことができる”という、まさにタイトル通りのプレイさ。このパフォーマンスは、曲の冒頭にコラージュして組み込んだ」 さらに、ジョニー・グリーンウッドが、彼のフェンダー・テレキャスターの弦を絵筆で叩いて音を出した。様式を派手に破壊する革新的なやり方は、レディオヘッドにおける彼のプレイを特徴づけることとなった。「ギター・スケールをまったく知らないんだ」と彼は、1993年のギター誌で述べている。「メジャー・スケールをひとつだけ知っている。それだけ。あとはキーに合わせてネックを上下するだけさ。でもコードだけでもいける。1分間に2000音も速弾きできないが、僕はEコードをネックのどのポジションでも弾ける。その方がよっぽど楽しいと思う」

Translation by Smokva Tokyo

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