80年代生まれの焦燥と挑戦:石戸諭「ニュースとは何かがあらためて問われている」

BuzzFeed Japanの石戸諭(Photo by Tetsuya Yamakawa)

「ミレニアル世代」という言葉が市民権を得て久しい。アメリカで1980〜2000年初期に生まれた世代のことを指し、これからの経済を動かすとされている若者たちだ。日本でも同様に「バブル」「ゆとり」「さとり」と常にそれぞれの世代は名前を付けられがちだが、ふと自分たちの世代にはこれといって名前が付いていないことに気づく。今回、ジャンルを問わず花開きつつある30代の方たちと、じっくり話してみることにした。

第3回 石戸諭(BuzzFeed Japan

東日本大震災という未曾有の事態を体験し、あのとき30代を迎えようとしていた世代は何を思ったか。そしてそこから何が変わったか。言葉と伝えることの可能性を切り拓く記者・石戸諭が挑戦するフィールドとは。

ー東日本大震災当時は新聞記者として被災地取材に関わられ、当時27歳。あのときは皆、自分が三十代以降をどう生きるのか突きつけられましたよね。

石戸 皆、なにかしら考えたと思うのです。僕はずっと、甲本ヒロトさんやチバユウスケさん、宮本浩次さんといったロックミュージシャンのマインドがとても好きでした。
加えて、沢木耕太郎さんたちが切り開いたノンフィクションの作品群や、ファッションの世界なら川久保玲さんの影響も強く受けている。そういうバックボーンがあってか、震災の後は、自分にとって大事なことってなんだろうと考えながら、広く届くものを書きたいという意識が強くなりました。

ー震災後に新聞社からBuzzFeed Japanへと移られ、伝え方も変えようとされていて。

石戸 2011年の3月に震災の取材に行き、そこで記者として行っているのに、新聞記事の枠で書ききれないものがあると思ってしまったのです。僕は新聞というメディアに向いているタイプではない、と痛感しました。

ー伝えるべきこと自体が変わった、ということでしょうか?

石戸 当時の取材ノートを見返すと、現場で会った人たちの個別の言葉や断片的なシーンとか、そのとき、目についたものを、すごくメモしていました。これはわかりやすくニュースになる話ではないんですね。自分の関心が個的なもの、大きく括れないものにあると気づかされました。

ーそれをインターネット媒体であれば伝えられるのでは、と。

石戸 丁寧な取材に基づき、時間に耐えられる長い記事が、今のインターネットには足りない。新しいことができるチャンスだと思いました。そこで自分に課したのは、いわゆるネットっぽい文体を模倣しない、ということでした。

ーネットっぽいというのは?

石戸 例えば口語調で、その時々のネットの流行り言葉を使うものです。僕が目指したのは、誰にとっても読みやすく、共感できる仕掛けを取り入れつつも、実は繊細で、わかりにくいことを伝えるというもの。表面的なものではなく、二層三層と深いところまで掘り下げた読み物を、読者に届けたかった。

ーそれをニュースの中で実践してみる、ということでしょうか。

石戸 インターネットの時代になって、ニュースとは何かがもう一度、問われています。事実を伝えることを基本に、もっといろんな方法を試していきたいんですよね。科学的な事実をおさえた上で、それぞれの価値観や生き方をもう一歩踏み込んで伝える。それが、この本やBuzzFeedでの実践です。本や記事を読んでくれた人のなかで、新しい気づきがあったということも、僕はニュースと呼びたい。挑戦はまだまだ続きます。

石戸諭がレコメンドするもの
「川久保玲さんの言葉」
「すでに見たものでなく、すでに繰り返されたことでなく、新しく発見すること、前に向かっていること、自由で心躍ること」。コム・デ・ギャルソン1997年春のDMより。昔どこかで見たものでない新しいことをやろう、と石戸さんを駆る言葉だ。


『リスクと生きる、死者と生きる』

石戸諭
亜紀書房
発売中


石戸諭(BuzzFeed Japan)
1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局~大阪社会部~デジタル報道センターを経て、2016年1月に「BuzzFeed Japan」 に入社。現在まで同メディアに所属する記者として活躍中。2017年には、東日本大震災、福島第一原発事故以降、取材を続けてきた軌跡をノンフィクションとして書き上げた初の著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を刊行。
https://www.buzzfeed.com/satoruishido


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