BRAHMAN武道館密着レポ「矛盾すら唯一無比の説得力になるオリジナリティ」

1曲目は「The Only Way」。〈失わない唯一の方法は失い続けること〉〈迷わない唯一の方法は迷い続けること〉、そんなパラドックスこそ己の道だと宣言する、まさに彼らの真髄である。AIR JAMブーム全盛期の頃は居心地の悪そうな顔で流行りを否定していたし、初期はいくらハードコアが好きだとしても直系の曲を意地でも書かなかった。ブームの中で誰より長く生き延びたのに、いつも〈死〉や〈終わり〉に取り憑かれた歌詞を書き、無数の死と対面した東日本大震災の後は全力で〈生きろ〉と歌い始めた。欲しいなら捨てろ。始めたいなら終わらせろ。文字にするとややこしい精神性も、繰り返し実践することでオリジナルになる。矛盾すら唯一無比の説得力だ。ステージ目がけて無数のダイバーが次々と落下するさまは(8ブロック全方位から人が押し寄せる光景はまさに圧巻!)、そんなBRAHMANだから信じてきたのだ、と訴えるファンの忠誠心の表れだった。


TOSHI-LOW(Vo)(Photo by Tetsuya Yamakawa [Showcase])

ニューアルバム『梵唄 -bonbai-』から「雷同」、そして「賽の河原」とハードに攻める前半。ドラム以外ほとんど定位置を持たないメンバーの動きは、むしろ八面のステージでさらに解放的になっている。南西ブロックを指して「ここに立つ!」と叫んだTOSHI-LOWは、次の瞬間、東ブロックに身を翻し「其処に立つ!」と「BASIS」を歌いだす。右足を高々と上げながら回転するMAKOTO(Ba)も然りで、そのうちステージから落ちるんじゃないかと思うくらい広範囲で暴れ回っている。それは、なんというか、自由だった。スタッフのいない4人だけのステージは、孤独だが、でも同じくらい自由。なんでもやれるし何も怖くない。4人はこの瞬間を楽しんでいるのだろう。そんな表情がはっきりと見て取れた。


MAKOTO(Ba)(Photo by Tetsuya Yamakawa [Showcase])

激しさの中にメロディの艶っぽさが光る「SPECULATION」。後半のブレイクで無音が訪れ、真っ青なライトが静かにステージを照らし出す。一発のスネアで再び曲が動き出し、鮮やかに天井がライトアップされた瞬間は、まったく神々しい幻想でも見ているかのようだった。ここがハイライトかと思えたけれど、否、その後の「怒涛の彼方」で歓喜の大波が押し寄せた。颯爽とステージに登場する東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊。BRAHMANのギター/ベース/ボーカル/ドラムを東西南北とするなら、谷中、北原、GAMO、NARGOがそれぞれ南西や北東の方向を向き、総勢8名が八面に対してゴージャスな音をブッ放つのだ。腹の底からこみあげる高揚感は、視覚的・聴覚的にも普段のBRAHMANではありえないもの。祝祭! まさにその一言だった。

ゲストが次々と呼び込まれる。「ナミノウタゲ」では永積タカシが美しいハーモニーを響かせていた。これは海に流された我が子を想う石巻の友人のエピソードから生まれた一曲だが、〈しっかり掴まれよ〉と2人が手を握り合うシーンに思わず涙腺が緩んでしまう。だが次の瞬間から燃える怒りに身を投じるのもBRAHMANだ。スラングのKOを迎えた「守破離」は、たった90秒の曲ながら獣じみた獰猛さに血が沸騰したし、そのKOがILL-BOSSTINOを呼び込んで「ラストダンス」が始まった瞬間は、もう本能が雄叫びを上げてしまうくらい興奮した。BOSSのラップが楽曲のメインを占めるが、全員が雄々しいコーラスを合わせるだけでBRAHMANの世界は成立する。誰より激しい鬼神であり、誰より慈悲深い菩薩のようでもある。そんな矛盾を当然として表現できるBRAHMAN。ゲストの多彩さは、彼らの音楽と表現の豊かさを、改めて浮き彫りにさせていたのだった。

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