世界を制したエド・シーランの「現実」と付き合う方法

2日後のサタデー・ナイト・ライブの楽屋。シーランは控室の壁一面に貼られた過去の音楽ゲストの写真を見ている。カニエ・ウェスト、ポール・マッカートニー、シーラン自身。「この写真の俺って運動音痴のマヌケっぽいよね」と、前かがみで真面目な表情をしたプレス写真の自分を指した。すぐにドレスリハーサルのライブ映像が流れ始める。シーランは、メリッサ・マッカーシーのショーン・スパイサーのモノマネや、番組ホストのアレック・ボールドウィンの一人芝居を見てキャッキャッと笑いながら「マジでヤバい!」と言う。


2015年、ストーンズのステージに登場した後(Courtesy of Ed Sheeran

彼が将来について語る。今、彼が作ろうとしているボーイズバンドのメンバーをオーディションしている最中だそうだ。このバンドの楽曲はかなり書き溜めていると言う。「ものすご〜くまともな曲ばかりだよ。すごくポップだけど、間違いなく本物の音楽さ。3〜4人の少年をまとめて、楽曲も全部俺が作って、一緒にスタジアム・ツアーをまわるつもりだ」

シーランは÷(ディバイド)ツアーで世界各国をまわる。2017年はアリーナ、2018年はスタジアムで、これが2019年の初めまで続く。彼は究極の目標に向かってじわじわと前進している。「あらゆる場所のスタジアムで演奏したい」とシーラン。「ジョージ・ストレイトみたいになりたいんだ。彼は4年ごとにツアーを行なって、スタジアムを2〜3カ所やって、サッと表舞台からずらかるんだよ」 また、彼は低予算の映画に出演する計画も立てている。『ONCE ダブリンの街角で』のような映画で、サウンドトラックも彼が担当するのだ。「自分のキャリアに映画を1本加えたくてね」とシーランが言う。

仲間のザック・ブラフがデート相手と一緒に勢いよく控室に入ってくると、シーランは自分のチームメンバーに「cash me outside」というミームを見せた。ブラフはシーランに向かって「SNLに出られるほど楽しいことはない。最高にオタクな気分だぜ」と言って続けた。「お前がスター・ウォーズのコンベンションに行くのと同じだな」 
(註:Cash me outsideは「外で決着をつけてやる」という意味。2016年にTV番組『ドクター・フィル』に出演した不良少女が発した仲間内のスラングで、意味不明すぎて逆に大流行)

シーランは必死に真剣な顔つきを保ちながらブラフのバックステージパスを指差して「タレント? どうしてパスがタレントなの?」と言う。

「お前、バカか?」と言ってブラフが続ける。「お前は俺のサポート役だろうが」

「シェイプ・オブ・ユー」を演奏するため、シーランは控室からまっすぐステージに向かう。声のウォームアップは一切しない。少しして、2曲目の「キャッスル・オン・ザ・ヒル」を演奏するためにチェリーと歩いていると、今度はトレイシー・モーガンと遭遇する。コメディアンのモーガンの話題は『帝国の逆襲』から『ゴッドファーザー』、そしてマイケル・ジャクソンへとクルクル変わる。「マイケルは音楽だった」と言って、モーガンは続ける。「彼の魂を作っていた繊維の1本1本が音楽だったのさ。マイケルの問題は、年若くして全盛期が来てしまったこと。ジャクソン5の“ABC”なんて、マイケルがまだ8歳のときだぜ。一度ピークに達してしまったら、後は行き場がなくなってしまうんだよ」

「怖いこと言わないでくれよ!」と言いながらシーランが笑う。お前は心配ないとモーガンは言う。「彼は大丈夫。地に足が着いているからね。横には恋人もいる。これから妻を娶り、家族を作って、幸せいっぱいになるよ」。そこにトランプの仮装をしたボールドウィンが近づいてきたときのシューリアルさと言ったら。この1週間、シーランはボールドウィンの2人の赤ちゃんを褒めちぎっている。「誰かが赤ちゃんを連れてくると必ず『俺も欲しい』って思うんだよ」とシーラン。

番組が終わると、シーランは午前9時のグラミー賞のサウンドチェックのために飛行機に乗らないといけない。「お前は大丈夫さ」とモーガン。「ジェットで少し寝ろよ」 ボールドウィンはシーランのツアー予定について尋ねる。「何をするにしても、お前は若いし、ものすごい才能がある。お前たちももうすぐ赤ちゃんができるんじゃないのか。作るならプレイベート・ジェットでな」

チェリーが応える。「ツアーバス・ベイビーになると思うわ」

シーランが今楽しみにしているのは、来週の26回目の誕生日で、チェリーと二人でオーストリア・アルプスで過ごす予定でいる。「有名人に会えるのは最高だよ」とシーランが言う。「でも、それは人生とは言えない。リアルじゃないんだ。ある日、これには終わりが来る。それでも俺の横にいてくれると確信できるのがチェリーだよ。この状態があるうちは楽しむべきだけど、これを俺の現実にはしたくない。だってこれは俺が生きたい現実じゃないから」



Translated by Miki Nakayama

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