千鳥が明かす「フツーじゃない漫才」の謎

 
確かに、千鳥の漫才を観ていると、素で2人が笑っているときがある。この瞬間こそが予定調和を嫌う、千鳥漫才の真骨頂の瞬間ということになるわけだ。そして、その瞬間、客である僕らも笑ってしまっている。これが他を寄せ付けない天性の才能の証だ。

笑いの才能は確かだが、不思議と言えば、不思議なコンビだ。

取材中、大悟はずっと横を向いて少し不機嫌な感じでタバコを吸っている。ノブは、取材部屋が少し寒かったのもあり、スタッフが入れたコーヒーを両手でしっかり包むようにして持ち、ゆっくり穏やかに飲んでいる。まったく性格、キャラが違う。その2人がよく17年もコンビを組んでこれたなぁと思ってしまう。ノブが言う。「僕らは完全に役割が分かれているんで。だから大悟が別に変なことしていても腹立たないんですよ。大悟は大悟っていうボケのアホな人間ですから」。大悟がタバコを灰皿において、こちらを見て続けた。「まぁノブじゃなかった
ら大変やろうし、もう絶対ノブとの方がラクやし」と。ノブがのんびりとした口調で続ける。「他の芸人を見ててちょっと想像するんですよ。こいつと組んで、こうしてああして……わぁしんどそう!っていうのがほとんど。そうすると大悟ってやっぱやりやすいんだなぁって思うし、あと意外と真面目やし」と。


Photo = Tsutomu Ono


真面目?と驚くと、ノブは冷静にこう教えてくれた。
「笑いに対して大悟は真面目ですよ。むしろ僕の方がよっぽどズボラで。例えば僕はネタに飽きると滑るようなことを無理に大悟に振るんですよ。そういうときの僕はもうふざけたいだけなんですが、大悟のアドリブはちゃんとウケようとしてるんです。しかもネタ作ろうかって言ってネタ考えてくるんですから真面目ですよ(笑)」と。大悟が続いた「完全に僕の方が真面目やと思います。別にウケようがウケまいがわしらの人生に関係ないみたいな舞台もあるんですよね、おっさんが立食パーティしてるような。そんで滑っても普通は気にしないけど、ワシはどうにかウケようとするんです。で、声も張りめでアドリブをオーバーにやろうとしてるくらいのときに、こいつ結構マジのトーンの小声で『ええやん、もう帰ろ帰ろ』って言ってきますからね」と。大悟は真剣に語っている感じだが、どうにも漫才に聞こえてしまう。

話を聞いていると、千鳥は2人で漫才をしていること自体が幸せなんだろうなぁとつくづく思った。

そこで、改めて聞いてみた。お笑いをやっていてよかったことは?と。まずノブが答えてくれた。「小学校の卒業文集に“夢は日テレの社長”って書いてるくらいテレビが好きやったんで。そのテレビに今出ていて、そのときテレビで見ていた人たちに『千鳥、面白いな』って言ってもらえるのが一番うれしいですね」と。大悟がツッコむ。「日テレの社長ってどんな小学生やったんや?」と。ノブが「そんだけ好きやったから。じゃあ大悟は?」とパスを出す。

大悟が「キャバクラとか行ってキャバクラの女の子が『大悟さんってあんまりこういうお店来ないんですか?』って『そうやな。ワシら別にこんなとこ来んでもなぁ』って言うた後に『そうですよね。女の子寄って来ますもんね』って言われたときっすかね」と答える。すかさずノブが「ゲスいなぁ。実際あるけど、具体的でゲスいなぁ」とツッコむ。大悟が「毎日何十万円もつこうてるおっちゃん見たら『よかった』って思うねん。そんなことせんでもエエから」とわざとらしい得意げな顔で言う。この2人のやりとりで取材部屋で大きな笑いが起きて取材は終了した。

取材が終わると、大悟が煙たくなかったですか?と聞いてきた。取材中、自分が話すとき以外は横を向いてタバコを吸っていたので、機嫌が悪いのかと思っていたら、実はこちらに煙が来ないようにするための気遣いだったわけだ。あと数年で結成20周年、2人も40歳になる。

若手にはないこの余裕も彼らの魅力の一つだと思えた。


千鳥
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2000年7月結成。
『M-1グランプリ』で名を上げる一方、2013年に第48回上方漫才大賞を受賞するなど、実力派コンビとして定評があり、芸人からの評価も高い。Amazon プライム・ビデオにて現在配信中の松本人志が手がけるバラエティシリーズ「HITOSHI MATSUMOTO Presentsドキュメンタル」のシーズン4への出演も話題に。

Photo = Tsutomu Ono

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