全文翻訳|オバマ大統領、最後のスピーチ

どのような立場にいようとも、「この国の国民となった人々は自分と同じくこの国を愛している」、「我々同様、彼らは勤勉さと家族を大切にする」、「彼らの子供たちは、我々の子供たちと同じく好奇心が強く希望に満ち、愛すべき存在である」ということを我々は懸命に理解する努力をしなければなりません。

これらは容易いことでは無いでしょう。今は、仮想の閉鎖的グループに逃げ込んで安全を求める人が多すぎます。近所、大学のキャンパス、礼拝の場、ソーシャルメディアなど、自分と外見が同じく、同じ政治観を持ち、自分たちの共通信念に疑いを持たない人々が集まりグループを形成しています。高まる極端な帰属意識、拡大する経済的・地域的な格差、各趣味嗜好別に分裂したメディア。これらのグループ分けは、自然かつ当然の流れのように思えます。さらに我々は、事実に基づく意見や情報ではなく、それが真実か嘘かにかかわらず自分の意見に沿うような情報のみを受け入れる居心地のよいグループの中に篭もる傾向にあります。

この傾向は我々の民主主義に対する第三の脅威となるものです。政治というのは理念の争いです。我々は健全な討論を通じてさまざまな政策に優先順位を付け、それぞれの目標達成のための手段を順に講じていきます。ただし、そこに事実に基づく共通のベースラインや、新たな情報を受け入れる許容力がなければ、或いは相手が公平な立場を取っていることを素直に認めたり、科学や論理の重要性を認めたりすることができなければ、討論はちぐはぐになり、共通の認識や妥協点を見出すことは不可能です。

このことが政治を面白味のないものにしているのでしょうか?就学前の子供たちのために予算を割こうとすると激しく抗議の声を上げ、企業の税金を下げる時には黙っている議員たちはいかがなものでしょう?自分の政党内の道徳観の欠如に対しては寛容で、ライバル政党には厳しく責め立てる自分たちの態度をどう説明したらいいのでしょう?自分に都合のよい事実のみを選択する行為は不誠実というだけでなく、自滅的な行為と言えます。私の母は私によく言いました。「あなたが不正を行えば、真実は必ずそれを暴き出す」。

地球温暖化問題について、このわずか8年の間に我々は原油輸入量を半減し、国内の再生可能エネルギー生産量を倍増しました。そして、この地球の未来を救うために世界からの同意を取り付けました。しかし、思い切ったアクションを起こさなければ、我々の子供たちに地球温暖化問題の現況を論じ合う時間がなくなります。将来の子供たちはただ、自然災害や経済の混乱など、地球温暖化による影響の対策に追われることになり、安全な住み場所を求めてさまよう温暖化難民が大量に発生するでしょう。

今こそ我々は、この問題に対する最善策について話し合うことができるし、またぜひ議論すべきです。地球温暖化問題の存在を単純に否定するのは、将来の世代を裏切ることになります。我々の建国の祖らが拠り所とした、実用的な問題解決や革新に不可欠な精神に背くのと同じです。

18世紀の合理主義的啓蒙運動から生まれたこの精神は、我々を経済大国へと導きました。さらに我々には、(ライト兄弟が飛行した)キティ・ホークや(NASAの宇宙センターのある)ケープ・カナヴェラルから飛び立つ精神や、病を癒す精神、全ての人々のポケットに入っているコンピューターを作り出す精神があります。

理に適った信念、冒険心、力を凌ぐ正義の優位性を持つ精神は、1929年の大恐慌時にファシズムや専制政治へ傾かず、第二次世界大戦後に他の民主国家と共に秩序を取り戻しました。この秩序は、軍事力や国同士の友好関係に依るだけでなく、法の支配や人権、信仰の自由、言論の自由、集会の自由、報道の自由などの主義に従って得られたものです。

Translation by Smokva Tokyo

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