特別対談|2017年はどうなる?世界の変化と日本の行方:宮台真司(社会学者)& 萱野稔人(哲学者)

By Joe Yokomizo 2017/月号 P80〜85 |
Photo by Mark Wilson,Jack Taylor/Getty Images
大方のメディアの予想を裏切ったトランプ当選、そして僅差で支持者が上回ったイギリスのEU離脱を問う国民投票。今、世界はどんな変化を遂げようとしているのか――。2大トピックから探る、混迷の世界を生き抜く方法とは?

スペシャル対談 宮台真司(社会学者)×萱野稔人(哲学者)

トランプ当選とブレグジットの背景にあるグローバル資本主義の変化

―2016年を振り返り、2017年以降を考える時に、トランプ大統領誕生は外せないトピックスだと思います。まずはトランプ当選を、お2人はどんなふうに捉えているか、というところからお聞かせください。

宮台:僕はトランプ当選を待ち望み、家では、トランプが優勢と聞くと元気になり、ヒラリーが優勢と聞くと落ち込むという繰り返しでした(笑)。アメリカの多くの人たちと同じで、ヒラリーが大統領になれば、野放図なグローバル化が放置されて"茹でガエル"になると思ったからです。"茹でガエルはアメリカだけじゃない。せっかくブレグジット(イギリスのEU離脱)という揺り戻しが起爆したので、第二弾の揺り戻しを期待したんですね。

―"茹でガエル"にならないための揺り戻しとは、どういうことなのでしょうか?

宮台:僕はグローバル化推進論者なので、どんなグローバル化の仕方なら後遺症が少ないかを考えます。適応限界を超えた速度でグローバル化すれば、先進国の共同体や社会から揺り戻しが起こり、感情的に鬱屈した国民が戦争さえ望みかねない。そこまで行かなくても"諸悪の根源はグローバル化だ"となってグローバル化に急ブレーキがかかり、排外主義化します。イギリスのEU離脱もそう。近代国家は、資本主義・主権国家・民主政治のトリアーデ(三項構造)ですが、資本主義がグローバル化すると、中間層の貧困化で主権国家が空洞化し、選挙や国民投票が"資本と主権とどちらが重要かを民主で決める"という図式に陥る結果、主権が選ばれて排外主義化するだけでなく、グローバル化する新興国に抜かれて貧困化がさらに進み、ますます排外主義的に主権化するという悪循環が進みます。必要なのは、主権を制約してグローバル化を適切に制御するグローバル・ガバナンス(一国を超えて影響を与える問題の解決に取り組む多国間の枠組み)ですが、EUがデタラメに機能したので"グローバル・ガバナンスは御免被る"となったのがEU離脱。貧困国が富むグローバル化は良いことなのに、終わってしまいます。

―ええ。

宮台:加えて、グローバル化が新しいフェーズに入っているのもあります。世界の貿易量がどんどん減っているんです。中国の賃金や土地が上がり、そのぶん消費社会化で内需が膨らみ、中間生産財から最終生産財まで中国国内で作るようになって、今までのような中間生産財輸出型ビジネスモデルが終わりました。それで今度はインドやミャンマーが中国の道を歩むのかといえば、そうは行かない。なぜなら、テクノロジーが発達するからです。テクノロジーが発達するほど、わざわざ資本を他国に持ち出すより、国内で安く作れるようになります。IT化も、物というよりサービスの質で勝負をするようになります。かくして、地産地消型のローカル経済を回すIT産業を前提とした上で、グローバル化を回すという新しいフェーズに入ります。典型がアメリカの60万都市ポートランドです。こうした変化を踏まえれば、共同体を空洞化させる従来的なグローバル化の野放図さにブレーキをかけるために、まさにこの時期にこそシンボリックなことが起こったほうがいい。トランプ政権が法律を変えて独裁を永続させるといった恐ろしい事態が起こらない限り、せいぜい8年の任期です。混迷が大きければもっと早く終わります。そのぐらいの新しい時代の産みの苦しみは不可避でしょう。エスタブリッシュメントの自明性を壊すには、一定の荒治療が必要なのですよ。

"自国中心"を掲げたトランプの真意

萱野:私は、トランプ大統領誕生は知識人の真価が問われていると思うんですよ。ビビっている人ほどダメなんです。今、宮台さんが言ったように、私も少し余裕を持ってトランプ大統領を見ていったほうがいいと思います。実際に、そこまでビビることじゃないと思いますしね。例えば、トランプ氏がずっと言ってきたのは、"アメリカは世界の警察官から降りる。なるべく早く手を引くんだ"ということです。その文脈のなかで、日本にもっと防衛費をつぎ込んでほしいということを言っていた。その根底には、アメリカは"もう世界の警察はできません"という認識があるわけですね。実はこれと同じことを最も強く打ち出していたのは、オバマ大統領です。その点でいくと、トランプ氏は、政策の連続性がものすごくある。トランプ氏は過激発言ばかりが注目されましたが、根本的な認識はオバマ大統領と変わらない。むしろヒラリーさんのほうがそこの部分を曖昧にして、アメリカが世界の警察官であろうとしていた。世界の警察であるということは、世界にある種のジャッジメントを下すわけだから、アメリカは普遍主義を標榜せざるを得ないわけです。だから世界の警察を目指す人ほど、普遍主義者なんですね。普遍的な人権を重視して、人道的介入するわけです。これまで民主党はずっとそうしていろんな世界各地の紛争に介入してきましたが、世界の警察を辞めるということは普遍主義からも撤退するということです。要するに、世界のあらゆる人に適用される普遍的な人権の概念を尊重するより、自国中心になっていくということなんですね。そうした流れのなかで、移民の話もトランプ氏から出てきたわけです。

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