ローリングストーン誌が選ぶ、2016年の知られざる名盤15枚

2016年の知られざる名盤15枚

ローリングストーン誌編集部が選んだ、2016年の知られざる傑作アルバムの数々を紹介。

大衆の関心こそ集めなかったものの、ローリングストーン誌編集部のプレイリストを賑わせた2016年の隠れた名作15枚。

ヘイリー・ボナー『インポッシブル・ドリーム』
(原題:Haley Bonar, ’Impossible Dream’)


ヘイリー・ボナーの7作目となる本作のタイトルだけを見れば、セント・ポール出身のこのシンガーソングライターを夢見がちな楽観主義者だと思うかもしれない。しかし諦念漂う『ホームタウン・ゴーズ・ホウェアエヴァー・ユー・ゴー』や、切ないほどに自身を卑下する『アイ・ワズ・インポッシブル・ホウェン・アイ・ワズ・ビューティフル』では、過去にしがみつこうとする哀れな彼女の思いを、荒ぶるギターや控えめなキーボード、そして突進するようなビートが切り裂いてみせる。彼女の歌詞に登場するキャラクターたちは、それぞれのやり方で過去と決別しようする。『アイ・キャン・チェンジ』でボナーが自身に言い聞かせるかのように繰り返すそのフレーズは虚しく響き渡るが、アルバムのクライマックスでは「君は何にだってなれる」と、彼女は声高に歌ってみせる。深いリヴァーブによってぼやけたボナーのヴォーカルは、曲が紡ぐストーリーにリスナーが自身を投影させるスペースを生み出しているだけでなく、他人が見た夢の内容を意図せず耳にした時のような非現実感を演出している。Keith Harris


エレファント9・ウィズ・レイン・フィスク『シルヴァー・マウンテン』
(原題:Elephant9 With Reine Fiske, ’Silver Mountain’)


ノルウェーの3人組エレファント9が、ドゥンエンのギタリストのレイン・フィスクを迎えて制作した今作『シルヴァー・マウンテン』は、痛快なまでにプログレだ。20分超の大作2曲、そして『ビッチズ・ブリュー』を思わせる10分超のスティーヴィー・ワンダーのカヴァー『サンシャイン』を含む全5曲の本作は、40年以上の時を経てスカンジナビア半島で再び開花しようとしている、イングランド生まれのプログレの遺伝子を強く意識させる。エレファント9はキング・クリムゾンやイエスの圧倒的なテクニックと、エレクトリック期のマイルスやウェザー・リポート、トニー・ウィリアムス・ライフタイム等が追求したフュージョン・ジャズの冒険心を違和感なく融合させてみせる。キーや拍子が目まぐるしく変化するそのローラーコースターのような展開の中に、コズミックなインタールードや、牧歌的なカンタベリーまでもが飛び出す本作は、まさにクラシック・ロックの一大トリップだ。少しも謎めいていない迷路のような『シルヴァー・マウンテン』は、クリムゾン以降のプログレッシヴ・ロックを知らずに育ったリスナーたちに、その深い魅力の一端を提示してみせた。Richard Gehr


ピーター・エヴァンス・クインテット『ジェネシス』
(原題:Peter Evans Quintet, ‘Genesis’)


こと音楽に関しては、ピーター・エヴァンスはリスクを冒すことを少しも恐れない。クラシックとジャズにルーツを持つニューヨークのトランペッターは、2014年にモストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリングが発表した、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』を偏執的なまでに緻密に再現したカヴァーアルバムに参加している。しかし自身のプロジェクトにおいては、彼は狂気に満ちたマキシマリズムと圧倒的なテクニックを追求している。彼を中心とするエレクトロアコースティック・クインテットの最新作『ジェネシス』は、ビバップとSF仕様に改造されたスクランブラー・レイとのコンボと言うべき、摩訶不思議な世界観を生み出している(その鍵を握るのは、リアルタイムでサウンドをエレクトロニックに加工するサム・プルータだ)。90分を超えるこの大作の大部分を占める長尺2曲のうちのひとつ『ジェネシス/スキズモジェネシス Part 4』では、サード・ムーヴメントに顕著な生々しいタンジェント音とプログレ・ジャズの機械的なリズムが絡み合う場面において、ロン・スタビンスキーのピアノがタガが外れたロボットのコーラスのように響く。ハイライトとなる瞬間の数々で、熱に浮かされたかのようなエヴァンスたちは音楽を内側から破壊していく。

Translation by Masaaki Yoshida

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