ドン・チードルの情熱の賜物『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』

ドン・チードルが監督・主演・脚本・プロデュースを務めた映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』。

ドン・チードルが監督・主演・脚本・プロデュースと大風呂敷を広げ挑んだ、知られざるマイルス・デイヴィスの肖像『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』。

"奉仕"とは何だろう? ドン・チードルが映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』で成し遂げたことを見てみよう。

ざらついた声、鋭い視線、髪、立ち振る舞い、コカイン乱用による幻覚や妄想など、ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスを徹底的な役作りで演じただけでなく、初の監督、さらには共同脚本、プロデュースと、一人四役を務めたドン・チードル。彼こそがこの映画の最大の功労者であり、同時に批判を受ける立場でもある。チードルは、この気まぐれで短気な天才を観客が身近に感じらるような好演で、俳優としては非の打ち所のない才能を発揮している。チェット・ベイカーを描いた映画『ブルーに生まれついて』同様、本作も安っぽい心理考察で複雑な人生を都合よくまとめ上げてしまう伝記映画の類とは一線を画している。



共同脚本のスティーブン・ベーグルマンとともに、チードルは中年期のデイヴィスが70年代後半から隠居していたおよそ5年の活動休止期間にスポットを当てている。単に時代をなぞるのではく、"もしもローリングストーン誌のフリーランス・ライター、デイヴ・ブレイデン(ユアン・マクレガー)が、デイヴィスの家に強引に押しかけ、インタヴューを敢行していたら?"という憶測で物語は展開する。さらに、"もしもデイヴィスがその取材を通し、ブレイデンを相棒として迎え入れていたら?"と憶測は続く。なぜなら、デイヴィスのために大学寮に忍び込んでドラッグを手に入れたり、マンハッタンのストリートで巻き起こる銃撃戦でデイヴィスを守ったり(デイヴィスは腰を悪くして足を引きずっていた)、コロンビア・レコードの大物、ハーパー・ハミルトン(マイケル・スタールバーグ)からデイヴィスのマスターテープを奪回するのを手伝ったり、ブレイデンとはそういう男なのだ。デイヴィスはブレイデンに向かってこう言う。「オレを語るなら―もっと個性を出せ」。

Translation by Sahoko Yamazaki

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