20位 ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ 『スケルトン・ツリー』
(原題: Nick Cave & the Bad Seeds, ’Skeleton Tree’)


ニック・ケイヴが30年以上に及ぶキャリアを通じて追求してきた、ロウソクを灯すような繊細なメロディーと、南部特有の泥臭さを宿したゴシックな美学は健在でありながらも、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの16枚目のアルバムとなる本作には、どうしても彼が経験した悲劇の影がつきまとう。15歳の息子を失った悲しみが癒えないまま本作のレコーディングに臨んだケイヴは、トレードマークのスモーキーで枯れるような歌声で、その悲痛な思いを切実に歌ってみせた。全8曲がすべて痛ましいバラードとなった本作で描かれるのは、喪失感や混乱、そして神という存在への疑問だ。ケイヴの心情が反映された登場人物たちは、無限なる自然、あるいはスーパーでの買い物といった日常の風景の中で、生きることの意味を問い続ける。「あなたを呼び続ける / この声が海の向こう側に届くまで / 戻ってくる空虚なエコー / 何かを手にするには犠牲がつきもの」タイトル曲の歌詞に滲み出るその深い悲しみと絶望は、聞き手の心の奥深くに訴える。C.W.

19位 ダニー・ブラウン『アトロシティ・エキシビション』
(原題: Danny Brown, ’Atrocity Exhibition’)


デトロイトの鬼才ラッパー、ダニー・ブラウンはドラッグやセックスにまつわる自身の経験を堂々とリリックにしてみせる。2011年作『XXX』がソラナックス、2013年作『オールド』がモーリーによるバッドトリップだとすれば、『アトロシティ・エキシビション』は遥かにたちの悪いメタンフェタミン依存による副作用のようなアルバムだ。『ダウンワード・スパイラル』で「レイヴパーティーかってくらい汗が止まらない」と歌うブラウンの症状は、曲を追うごとに激しく悪化していく。『ローリング・ストーン』のブルースロック・ビートは、正気を失っていくブラウンとは対照的に冷たく響き、『ロスト』のヴィンテージ・ソウルのループは、自身がさばくドラッグでハイになったディーラーの汚れた魂とシンクロする。しかしブラウンの狂気を何よりも刺激し、『アトロシティ・エキシビション』にマゾヒスティックな快感をもたらしているのは、ポール・ホワイトが手がけた『エイント・イット・ファニー』『ゴールドダスト』『ホエン・イット・レイン』が放つ、アンフェタミンのような抗いがたいほどの中毒性だ。M.R.

18位 THE 1975『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』
(原題:The 1975, ’I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful yet So Unaware of It’)


エロティックなムードとキャッチーなフックでリスナーを虜にするTHE 1975は、インエクセスのスナップチャット世代版というべき存在だ。彼らのポップミュージックへのアプローチは、神経質気味でありながらも極めて柔軟だ。躍動感みなぎる『ザ・サウンド』ではゴージャスなシンセポップを奏で、セクシーな『ラヴ・ミー』ではグラマラスなロックスターを演じ、『プリーズ・ビー・ネイキッド』では実験的な側面も披露している。様々なスタイルに挑みつつも、リーダーのマシュー・ヒーリーの官能的なリリック、そしてメンバーたちのメロディへの嗅覚は、THE 1975の音楽に一貫したエネルギーをもたらしている。虚勢を隠そうともせず、1988年頃を思わせるレトロなプロダクションと頭から離れないメロディを融合させるTHE 1975は、ロックとポップの境界線を無効化してみせる。M.J.

17位 パーケイ・コーツ『ヒューマン・パフォーマンス』
(原題: Parquet Courts, ’Human Performance’)


音程の狂ったギターと突拍子もない展開はペイヴメントを思わせるが、彼らのフラットで淡々としたグルーヴは、紛れもなくヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響下にある。テキサス出身で現在はニューヨークを拠点とする彼らを、単なるローファイ志向のインディーバンドたちと隔てるのは、過去の音楽に敬意を払いつつも、あくまでモダンなスタイルへと昇華させたその音楽性だ。ヴォーカルのアンドリュー・サヴェージは、絶妙な距離感を保ちながら現代の日常生活におけるパラドックスを描いてみせる。大衆の中で埋没する個をテーマとした『ワン・マン、ノー・シティ』、自分を理解してもらおうとすればするほど誤解が深まっていくというジレンマを歌った『パラフレーズド』はその好例だ。その一方で『ダスト』では、「どこもかしこもゴミだらけ / 掃除しやがれ」と直接的に煽ってみせる。『キャプティブ・オブ・ザ・サン』に登場する「ニューヨークの街角に投げ捨てられたメロディ」というフレーズが呼び起こすやるせなさは、アルバムの全曲に一貫して漂っている。K.H.

16位 ミランダ・ランバート『ザ・ウェイト・オブ・ジーズ・ウイングス』
(原題:Miranda Lambert, ’The Weight of These Wings’)


新世代のカントリーミュージシャンたちの中でも異彩を放つ彼女は、24曲を収録した2枚組の本作において、ユーモアや後悔の念、愛、そして怒りといった感情を、残酷なまでにリアルに歌ってみせた。反抗をテーマにした『ハイウェイ・バガボンド』から、失恋の痛みを歌った『ティン・マン』まで、彼女の多様な音楽的バックグラウンドが反映された本作は、モダンなカントリーポップとソウフルフルで伝統的なアメリカーナを見事に融合させている。『ザ・ナーヴ』と題された大胆なディスク1で「悲しみを土産物のように身にまとう」彼女は、よりパーソナルなディスク2『ザ・ハート』では、プライドをもって複雑な胸中を明かすたくましい女性像を確立してみせた。B.S.

Translation by Masaaki Yoshida

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