映画『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』:新たな傑作青春群像劇の誕生

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リチャード・リンクレイター監督は、毎日パーティーに明け暮れる体育会系大学生のコメディで、あなたを1980年代へとタイムスリップさせる。

高校を卒業し、ついに自由を手にしたときのあの感触を、テキサス出身の脚本家・監督のリチャード・リンクレイター(『6才のボクが、大人になるまで。』)はよく覚えている。初めて自立した時の言葉にできない解放感、つまり大学生活の始まりの数日間とは、一生頭に焼きついているものだ。実家? 両親? 責任感? そんなものにはおさらばしよう。泥酔してバカ騒ぎをすること、実際のところそれが大学のカリキュラムなのだ。

リンクレイター監督が、1976年の若者たちが最後の高校生活を謳歌する姿を描いた『バッド・チューニング』(1993年)の続編的存在とも呼べるのが、本作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』である。今作では、1980年代のテキサスの大学を舞台に、野球少年だったリンクレイターならではのパーソナルな描写で、頭の弱い野球部部員たちの青春を鮮やかに捉えている。傑作『スラッカー』から『ビフォア』シリーズ3部作まで、リンクレイターの作品には親近感を抱かずにはいられない。


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これまでのリンクレイターの青春映画と異なる点は、オタクや変わり者の主人公が、野球部員という花形のスポーツ選手になっている点だろう。愛嬌あふれるブレイク・ジェナー演じるジェイクは、全く新しい世界ともいえる野球部の寮に引っ越してくる大学一年生のピッチャー。ジェイクのルームメイト・ビリー(ウィル・ブリテン)は堅物で、先輩マクレイノルズ(好演が光るタイラー・ホークリン)のちょっかいにもまともに付き合ってしまう。そして、いつもマリファナをキメている年長のウィロビー(カート・ラッセルとゴールディ・ホーンの息子ワイアット・ラッセル)と、チームで唯一の黒人選手のデイル。なかでも素晴らしいのが、いつもパイプの煙をくゆらせ、ジャック・ケルアックを引用しては、行きずりの相手を探している芸術家気取りのグレン・パウエル演じるフィネガンだ。ローパー(ライアン・グスマン)がキャンパスに車で向かい、女子大生に軽くあしらわれると、彼は口を揃えてこう言う。「レズビアンだな」。

Translation by Sahoko Yamazaki

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