それからお互いの好きなアルバムの話になり、ふたりともザ・ビーチ・ボーイズのアルバム『サーフズ・アップ(原題:Surf’s Up)』が好きなことがわかった。マイケルは、ビーチ・ボーイズのベーシスト、ブライアン・ウィルソンが重い精神障害に冒されていることを嘆き、同じくバンドのメンバーで彼の兄デニスは薬とアルコールの問題を抱えている、と話した。「病気に苦しめられるよりは突然死がいいよ。僕が死ぬときはね。エルビスみたいに死にたいんだ」とマイケルは語った。
夜も更けてきたので、私はそろそろ失礼しなければ、と思い始めていた。私はマイケルに、ハリウッドのホテルへ戻らなければならないのでタクシーを呼んでもらえないかと頼んだ。「ちょっと待って。ランディが送ってくれると思うよ」と言うと受話器を取り上げ、ボタンをいくつか押した。マイケルの実弟であるランディ・ジャクソンが邸宅の別棟かどこかに隠れていたに違いない。「ヘイ、ファンキー! 僕の友だちをサンセット・ストリップまで車で送ってくれないかい?」
10分後、マイケルの弟ランディが玄関ホールに現れた。彼はぴったりした赤いレザースーツの胸をはだけ、サングラスに金のネックレスで着飾っていた。彼は私をホテルまで送り届ける役目を喜んで引き受けてくれた。
「ランディ、送った後はまっすぐ帰って来るんだよ。わかってるのかい?」とマイケルは諭すような調子で弟に言った。「クラブへ行って女の子を引っかけたり、クスリをやったりするんじゃないよ」。
雨が激しく降り続くハリウッドヒルズを、ランディ・ジャクソンはジープを飛ばした。ローレル・キャニオンの高いコンクリートの壁に挟まれた急カーブは、まるで急流下りのようだった。ラジオからはKROQが大音量で流れていた。私はアームレストをしっかり握りしめ、早くベッドに入りたいと願っていた。
するとランディが目をキラリとさせて言った。「ヘイ、ドルビー。クラブ・オデッセイに顔だしてみないか? すげえサウンドシステムがあるし、ハリウッドで一番いい女が集まっているしさ」。
私は深く息をついた。「今回はやめておくよ。私はイギリス人なんだ」。
Excerpted from The Speed of Sound: Breaking the Barriers Between Music and Technology. Copyright © 2016 by Thomas Dolby. Excerpted by permission of Flatiron Books, a division of Macmillan Publishers. No part of this excerpt may be reproduced or reprinted without permission in writing from the publisher.